脳卒中について。その47 【第6のリスク・コレステロール】

 
公立藤田総合病院・佐藤昌宏 福島県立医科大学医学部大学院卒業、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科。2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授

 今回は脂質異常症や高血圧、糖尿病が原因でおこる動脈硬化の治療についてお話しします。

 1.動脈硬化の治療

 残念ながら、動脈硬化をズバリ治す薬はありません。しかも動脈硬化は年齢を重ねるごとに進行してしまいます。ですから少しでも進行を遅らせることで、合併症や重症になるのを防ぐことが大切になります。そのためには、以前もお話しした生活習慣を改善し、次のような危険因子を無くすか、極力減らすのが最も効果的な治療方法になります。

 危険因子とは脂質異常症、内臓脂肪型肥満、高血圧、糖尿病、骨粗しょう症、睡眠時無呼吸症候群、喫煙です。危険因子を無くす、減らすためには、食事療法、運動療法、薬物療法が必要になります。食事療法、運動療法については以前お伝えしたので、今回は脂質異常症の薬物療法についてお話しします。

 2.薬物療法

 動脈硬化の治療として薬物療法が行われるのは、原則として、運動療法や食事療法などの生活習慣の改善を十分に行っても、悪玉コレステロールであるLDLコレステロールの値などが改善しない場合です。特に、リスクの高い人は動脈硬化が進みやすいので早めに薬物療法を行います。そのほか、心筋梗塞や狭心症、脳梗塞の既往がある方は、上記の危険因子よりも動脈硬化が進んだ段階なので、生活習慣の改善だけでなく積極的に薬を使って改善していくことになります(図1)。

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 【LDLコレステロールが高い人】

 LDLコレステロールが高い人に対してよく使われているのはスタチンと呼ばれる内服薬です。スタチンは肝臓でのコレステロールの合成を抑え、血管壁にたまったコレステロールを減らす作用があります。血管の炎症を抑える作用もあるため、動脈硬化に対して非常に有効な薬といわれていますが、使用してもLDLコレステロールが下がらない場合には、スタチンとともに、小腸でのコレステロールの吸収を抑えるエゼチミブまたはレジンという薬が使われます。エゼチミブは細胞レベルでコレステロールの吸収を抑える作用がある薬で、レジンはコレステロールが腸の中に入らないようにして、外に出す作用のある薬です。

 2016年から、動脈硬化を防ぐ薬として、注射薬のPCSK9阻害薬も登場しました。スタチン同様、LDLコレステロール値を強力に下げる薬です。この2つを併用すると、スタチン単独での使用と比べて、LDLコレステロール値を平均でおよそ60%低下させることができます。その結果、心筋梗塞の発症を抑制する効果が発表されています。

 この研究は、狭心症や心筋梗塞を起こしたことがありスタチン単独ではLDLコレステロールを十分に低下させられなかった27564人の患者を対象に行われました。これらの患者を、スタチン単独使用のグループと、スタチンとPCSK9阻害薬併用のグループに半分ずつに分けて治療を続け、使用開始から平均で2~3年ほど経過を観察した結果、併用したグループは、スタチン単独使用のグループと比べて、心筋梗塞の再発が27%少ないことが明らかとなりました。

 ただしPCSK9阻害薬は比較的高額で、注射に手間がかかるという課題があります。注射は月1~2回行い、費用は3割負担の場合7000円から14000円ほどかかります。基本的には生涯続ける薬のため、心筋梗塞を発症する危険性が高く、費用と手間をかける必要性のある人に使用することになります。

 一番の適用は、生まれつきLDLコレステロールが高くなる体質の家族性高コレステロール血症の人です。ほかに、心筋梗塞を発症したことがありスタチン単独ではLDLコレステロールが十分低下させられない人や、糖尿病があり狭心症・心筋梗塞を含め動脈硬化性の病気がある人にも使用を勧められることがあります。

 【中性脂肪が高い人】

 LDLコレステロールは高くないものの、中性脂肪が高い場合には、肝臓での中性脂肪の合成を抑えるフィブラート系の薬と魚の油から抽出したEPA製剤が使われます。EPA製剤は、血液をサラサラにするので、心筋梗塞などを予防する作用もあるといわれています。これらは副作用に注意しながらスタチンと併用することも可能です。脂質異常症薬の主な副作用は(図2)のようなものがありますので、もし、内服している方で症状がある場合には主治医と相談してください。

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 次回は脳卒中予防十か条7番目「お食事の塩分・脂肪 控えめに」についてお話しします。