【復興の道標・放射線教育】「なぜ学ぶか」が出発点 理解し伝える力に

「原発事故のことを覚えていない子どもや、どうして放射線のことを学ぶのか、ピンとこない子どもが県内ですら増えている。『なぜ学ぶのか』の前提を、もっと丁寧に伝えていかなければならない時期だ」
県教委で放射線教育を担当する義務教育課指導主事の国井博(46)は、県内の放射線教育の現状を語る。
小学校では、震災後に生まれた子どもが今年入学した。子どもにとって6年という時間の経過は大人以上に長い。放射線教育は徐々に「身近なもの」ではなくなってきている。震災の風化への対応が、放射線教育の現場でも迫られている。
県内のある小学校で行われた抜き打ちの避難訓練。校庭に避難するよう指示する校内放送が流れた。既に校庭にいた子どもたちは校舎に戻り、玄関に上履きに履き替えに戻った。それまで避難訓練で上履きのまま校庭に出るよう教わっていたため、子どもたちは抜き打ちの訓練でもそのルールを守ったのだ。
国井は「訓練の意義を深く理解していなければこうなってしまう。放射線教育も今、きちんと意義を伝えないと。10年後に同じことが起こるのではないか」と危惧する。
福島の子どもはたとえ震災を体験していなくても、廃炉作業が続く30~40年にわたって原発事故や放射線の問題と向き合っていかなければならない。放射線教育を形骸化させず、切実感を持って考えてもらうことが必要となる。
一方、全国では放射線への知識がないがゆえの思い込みから、本県から避難した子どもへのいじめが顕在化した。
文部科学省の調査では、原発事故で本県から県内外に避難した小中高校生らに対するいじめは、把握できたものだけでも199件、うち原発事故や震災に関連するケースが13件あった。
県教委が本年度始めた、学校と地域連動による放射線教育の「福島モデル」づくりの根底にあるのは、放射線に関する科学的な基礎知識を正しく理解した上で「伝える力」だ。国井は「自分の言葉で正しく説明できる力が身に付けば、いじめや風評などの問題の解決につながる」と訴える。
(文中敬称略)
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