新酒仕込み直前...「台風19号」蔵元に打撃 ため息漏れる関係者

 
泥のはき出しや消毒を行う従業員ら=16日、郡山市・笹の川酒造

 台風19号の影響で、『日本一』の日本酒を生み出す県内の蔵元に被害が出ている。酒造りに不可欠な酒造好適米(酒米)を精米し、県内ほとんどの蔵元に供給する郡山市の精米工場までもが浸水被害を受けた。間もなく迎える新酒の仕込みを前に、関係者からため息が漏れる。

 本宮市の大天狗酒造。1872(明治5)年創業の老舗は1階が浸水し酒米の一部やボイラー、冷蔵庫が水没した。こうじは2階に避難させたため、何とか無事だった。今週から冬に向けた本格的な仕込みに入る予定だったといい、伊藤滋敏社長(64)は「タイミングが悪く、酒造りが本格化する時に出はなをくじかれた。いつから再開できるか見通しも立たない」と肩を落とした。

 阿武隈川近くにある笹の川酒造(郡山市)は、酒蔵の床に数センチほどの泥が流れ込み、ウイスキーの原料である麦芽などが水に漬かった。16日は従業員らが泥のはき出しや蔵の消毒作業に追われた。設備に影響はないものの、山口恭司専務(59)は「(日本酒造りが)来週か再来週ごろから始まるので、まだコメは入ってきていない。造りをやっている時期であれば、大変な被害だったと思う」と話した。

 浸水被害を受けた郡山市の精米工場では、県酒造組合や多くの蔵元から委託を受けて酒米を精米している。全国新酒鑑評会に出品される県産酒の約8割に使われている兵庫県産「山田錦」は被害を受けなかったが、県産酒米「夢の香」や「五百万石」が水に漬かった。同組合は「委託していた分を県内外の精米所に振り分け、できるだけ影響が出ないようにしたい」とする。

 蔵元が集中する会津地域でも大きな影響を受けそうだ。夢心酒造(喜多方市)は精米した酒米が届かない状況に頭を抱える。東海林伸夫社長(50)は「来週入ってくる予定だった酒米が届かないと聞いた。12月に出荷予定の約3分の1の酒が仕込めなくなると思う。1年間で一番お酒が売れる年末年始の時期を前に新酒が造れないのは、各蔵元でかなりの影響が出る」と嘆いた。

 会津若松市を中心に12の蔵元が所属する会津若松酒造協同組合は、JA会津よつばと契約して会津若松市産の酒米を年間192トン程度、この工場で精米し蔵元に供給。15日には、新米21トンを工場に運び入れる予定だったが、急きょ中止した。同組合は「稼働再開まで代替となる施設を探し、なるべく早期に蔵元に酒米を供給できるようにしたい」としている。