『8連覇』夢つなぐ福島県産日本酒 全国新酒鑑評会・33点入賞

 
「先代が入賞を喜んでくれていると思う。思いを受け継いでいきたい」と話す酵さん(右)と修子さん

 2019酒造年度(19年7月~20年6月)に製造された日本酒で、本県が全国で2番目に多い33点の入賞を果たした全国新酒鑑評会。新型コロナウイルスの影響で金賞数「日本一」の記録更新は持ち越しとなったが、各蔵元の熱意と技術が来年の8連覇へ夢をつないだ。

 「先代の形見」大吟醸

 【郡山・佐藤酒造店】佐藤酒造店(郡山市)では、入賞の知らせを従業員が特別な思いで受け取った。出品したのは、今年1月に亡くなった先代の佐藤彦十郎さん=享年(64)=が最後に仕込んだ大吟醸。長女で取締役の酵(こう)さん(32)は、「口数の少ない父だが、心の中で『良かった、良かった』と喜んでくれるはず」と、ほっとした顔を見せた。

 彦十郎さんは仕込み中に倒れ、帰らぬ人となった。同酒造は数年前に設備を一新、吟醸系主体に切り替えたばかり。新たな「藤乃井」ブランドを模索し道が開けてきた中での不幸だった。

 大黒柱を失っても立ち止まる時間はなかった。「酒は生き物。待ってはくれない」と従業員一丸で打ち込んだ酒が、大舞台で評価された。

 15代目は、彦十郎さんの妹修子さん(58)が継いだ。「地元に愛される酒に」。口数の少なかった彦十郎さんが生前語った思いとともに、酒蔵の歴史がつながれていく。

 杜氏復帰...新体制初の受賞

 【会津若松・花春酒造】花春酒造(会津若松市)は2013(平成25)年の金賞以来の入賞で、16年9月に新会社へ酒造事業を譲渡してからは初の受賞となった。「新生・花春の良いところを示せた」。専務の佐藤清さん(73)、杜氏(とうじ)の柏木純子さん(49)が笑顔を見せた。

「再生には不可欠」 柏木さんは事業譲渡の直前に退社しており、新体制は杜氏不在でスタートした。新体制で専務に就いた佐藤さんは、取引先から柏木さんの名前を繰り返し聞き「花春再生には柏木さんが不可欠だ」と痛感、復帰を働き掛けた。柏木さんは転職先の蔵元に恩義を感じながらも「酒造りの魅力を教えてくれた花春に貢献したい」と18年12月に復帰した。

 入賞酒は復帰2年目に仕込んだ。「自分でも驚く出来栄えだった」と柏木さん。次回の酒造りへ「飲みやすく親しまれる酒を造りたい」と決意を新たにした。

 浜通り唯一!昨年の雪辱

 【いわき・四家酒造店】浜通りで唯一入賞した四家酒造店(いわき市)の7代目四家久央(ひさお)社長(49)は「入賞の報告を受けてほっとした。評価されてありがたく思っている」と喜びをかみ締めた。

 一昨年は金賞に輝いたが昨年は入賞を逃し、苦汁をなめた。四家社長は、酒の味の決め手となるこうじを変えて再挑戦。比較的暖かい同市の気候を踏まえ、温度管理に注意し甘みの出やすいこうじで華やかな香りが引き立つ、すっきりとした味わいの酒を造り上げた。

 江戸末期の1845(弘化2)年に創業し、175年の歴史がある酒蔵で、初代又兵衛の名を銘柄に伝統を引き継ぐ。新型コロナウイルス感染症の影響で、出荷量は昨年同期比で3分の1まで落ち込むが、県産酒33点入賞の吉報に「明るい話題ができた」と期待を込める。「地酒は大切な文化の一つ。飲み方を工夫して酒を楽しんでほしい」

 強い絆信じ今後も励む

 【会津坂下・曙酒造】2016(平成28)年から3年連続で金賞に輝いた曙酒造(会津坂下町)は2年ぶりの金賞を目指し酒造りに励んできた。今年は金賞の審査がなく昨年と同じ入賞にとどまったが、代表社員の鈴木孝市さん(35)は「蔵のモチベーションにつながる」と受賞を前向きに捉えた。

 東日本大震災をきっかけにスタッフの若返りを図り、16年3月の県産新酒春季鑑評会で最高賞の知事賞、19年11月の東北清酒鑑評会では最上位に次ぐ評価員特別賞を受けた。「全国では入賞は最低限」という意識のもと、香りが華やかで、甘さと透明感のバランスがきれいな酒に仕上がった。

 「自分たちの力だけではない。コメを作る農家さん、商品を売る酒屋さん、飲んで楽しむお客さんがいてこそ」と鈴木さん。人と人とのつながりを維持し、その強い絆を信じながら酒造りに励む覚悟だ。

 転身から10年の誉れ

 【平田・若清水酒造】若清水酒造(平田村)は初の入賞。同酒造9代目で専務の佐藤喜告(よしのり)さん(35)は「認知度の向上に期待している」と話した。

 同酒造は1751(宝暦元)年創業。佐藤さんは約10年前に自動車整備士から転身して家業を継いだ。県清酒アカデミーに通って酒造りを学び、当時は普通酒しかなかった「若清水」の吟醸酒などを造り始めた。

 造り始めた当初に全国新酒鑑評会に出品したが入賞はならず。以来出品していなかったが試行錯誤を重ね、今年は県春季鑑評会で良い評価を得られたことから、出品を決意した。

 若清水は県産酒造好適米「夢の香」と蔵の近くに湧き出るミネラル豊富な水で造る。飲みやすさから「日本酒への入り口」としておすすめという。初受賞だが目指すのは金賞。佐藤さんは「金賞がなかったのは残念だが、気持ちを切り替えて来年取りたい」と話した。

 「創業100年」独自路線実る

 【南会津・花泉酒造】「これまで支えてくれた地域や顧客、蔵元の仲間たちに感謝したい」。初出品で初入賞を果たした花泉酒造(南会津町)の代表社員星誠さん(43)は、満面の笑みを見せた。

 同蔵は、水と麹(こうじ)、米の「三段仕込み」の後、蒸したもち米を熱いまま仕込む「もち米四段仕込み」で知られ、独自路線を歩んできた。今年創業100周年を迎え、限定の醸造酒の仕込みに入ろうとしていた時だった。県ハイテクプラザから「鑑評会に出してみないか」と声を掛けられたという。

 「毎年金賞を目指す仲間の姿が浮かんだ」。出品を決意した星さんは、県内の蔵元から鑑評会に合わせた酒の抽出法などを学び、新たな逸品を生み出した。

 「日本酒の原料などオール福島による受賞がうれしい。花泉のスタイルに自信を持って次は金賞を獲得する」と星さんの挑戦は続く。

 「台風被害」乗り越えて

 【福島・金水晶酒造店】13年連続で入賞した金水晶酒造店(福島市)専務の斎藤湧生さん(26)は「周りの人に少しでも明るいニュースを届けられてほっとしている」と表情を緩めた。

 昨春から専務として本格的に働き始めた。その直後の昨年10月に東日本台風(台風19号)が発生し、被災した精米工場から原料米を確保するための対応に追われた。さらに新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛の影響で出荷量が激減し、「まさかこんな出来事が続くとは思わなかった」と漏らす。

 難局を乗り越えようと、日々奔走している。市内唯一の酒蔵として、NHK連続テレビ小説(朝ドラ)「エール」のモデルとなっている同市出身の作曲家古関裕而にちなんだ純米大吟醸「古関メロディー」を発売。「新型コロナが収束したら、朝ドラをきっかけに福島の酒を積極的にPRしたい」と力を込めた。