【ふくしまの酒9連覇<上>】消費低迷...蔵元支えた県民の地酒愛

 
9連覇を達成した県産日本酒。連覇は県内日本酒ファンの大きな関心事にもなっている=25日、福島市・県観光物産館

 「ふくしまの酒」は郷土の誇り―。全国新酒鑑評会の金賞銘柄数で県産日本酒が9連覇を達成した。新型コロナウイルス感染拡大による苦境を乗り越え、つかんだ栄冠の裏には、地酒を愛する県民の支えがあった。

 「今年の日本一は県民のサポートがあったことも大きい」。審査結果発表から一夜明けた26日。9連覇を見届け、県酒造組合会長を退任した有賀義裕さん(68)は蔵元の一人として感謝の思いを代弁した。

 新型コロナの影響で、大規模な宴会の需要が消えてから2年余り。飲食店を中心に日本酒の消費は低迷し、観光客の落ち込みで贈答用の高級酒の販売も減少が続いてきた。消費の落ち込みは酒蔵の仕込みにも影響を与え、一部の酒蔵からは「出荷量が減り、仕込みのタンクが空かないかもしれない」という危機的な声も出ていた。タンクから日本酒を瓶詰めできなくなれば、鑑評会のための出品酒の仕込みも断念せざるを得ない状況だった。

 そんな酒蔵を救ったのが、昨秋に県が独自に行った日本酒のキャンペーンだった。県内の旅館やホテル約300施設の宿泊者を対象に抽選で大吟醸酒を贈るこのキャンペーンには、県民を中心に当選枠の1.5倍となる約3万6000件の応募があった。県酒造組合によると、4合瓶(720ミリリットル)換算で1蔵当たり400本以上の消費拡大の効果があったという。全国的に酒蔵を直接支援する取り組みは少なく、有賀さんは「(県民の協力で)ある程度の数量を出荷できたことはありがたかった」。県内酒蔵の出品酒の仕込みにも大きな影響は出なかったという。

 県産日本酒の9連覇が発表された25日、県産日本酒の発信地の一つとなっている県観光物産館(福島市)では、集まった日本酒ファンが「おいしい地酒が身近にあることは誇り」「全国に魅力をアピールする一人になりたい」と喜びの声を上げた。

 全国新酒鑑評会の連覇は県内でも大きな関心事になった。ただ、気がかりなデータがある。地元で消費される日本酒の割合だ。県中小企業診断協会の分析によると、隣県の酒どころである宮城や山形、新潟が6~7割なのに対し、本県は3割台後半にとどまる。県外への出荷が多い一方で、県内消費は低調だ。この日、県酒造組合新会長に就いた渡部謙一さん(56)は「鑑評会の出品酒だけでなく、晩酌で飲まれている市販酒など全体的なレベルアップを図る必要がある」とした上でこう続けた。「ふくしまの酒を『おらが酒』(自分の酒)と自慢してもらえるようにしたい」

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 全国新酒鑑評会の金賞受賞銘柄数が9回連続日本一となった県産日本酒。苦境を乗り越えて再び栄冠を手にした酒蔵は、さらなるおいしさを追い求める。県内で存在感を増す「ふくしまの酒」の魅力を探る。