脳卒中について。その6

 

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 みなさんの笑顔と元気をサポートする「健康ジャーナル」。今回から公立藤田総合病院(国見町)副院長の佐藤昌宏先生が担当します。
脳卒中について。その6
公立藤田総合病院
佐藤昌宏先生
福島県立医科大学医学部大学院卒、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科、2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授。
 
 

      

 脳卒中の検査では、前回お話したCTやMRIが診断をするうえでも最も重要であり、また日常でもよく行われる検査です。今回は、その他の脳卒中に関連した検査についてお話します。

Ⅰ頸部血管エコー検査(図1)
 頸部血管エコー検査は、超音波を使って頸部の血管、特に頸動脈を観察する検査です。ベッドに横になり、プローブという超音波が出る機器を首に当てるだけで検査ができます。とても簡単に、しかも痛みを感じることなく検査をすることができます。頸部血管エコー検査では、主に脳に行く左右の太い動脈(総頸動脈、内頸動脈、外頸動脈、椎骨動脈)を観察します。
 動脈の壁の厚さや動脈硬化の状態、動脈の狭さと程度、さらには脳に行く血流の速度を測ることで、動脈の詰まり具合や狭くなっている部分を知ることができます。動脈硬化症とは、文字通り「動脈が硬くなること」です。動脈が硬くなると、動脈のしなやかさが失われて血液をうまく送り出せなくなり、心臓に負担がかかります。また、動脈硬化になると、動脈の内側がもろくなり、粥腫ができて血管の中が狭くなったり、詰まったり、粥腫が剥がれて血液中に飛び出して末梢の血管を詰まらせたりします。
 ちょうど古い水道管がさびて剥がれたり、詰まったりするのと同じ状態です。動脈の内側が狭くなると脳に必要な栄養や酸素が行き渡らず、脳梗塞になったり、もろい血管が破れやすくなったりします。
 この検査は動脈硬化を知りえる、とても簡単で便利な検査で、病院はもちろん診療所でも行うことができます。

Ⅱホルター心電図
 24時間心電図を記録する検査をホルター心電図と言います。胸に心電図の電極を貼り、その記録を小さな記録計に記録していきます。この記録計は常に持ち歩いてもらい、普段と同じ生活をしてもらいます。では、なぜ脳卒中の検査にホルター心電図が必要なのでしょうか。それは、不整脈が原因で心原性脳塞栓を起こすことがあるからです。これは、心臓内にできた血栓(血の塊)が心臓内壁から剥がれて脳に飛んでいき、脳動脈を詰めてしまう脳梗塞です。中でも、最も原因として多い不整脈は心房細動です。心房細動とは、心房という部屋が規則正しく収縮せず、震えた状態となる不整脈です。心房細動になると、肺から戻ってきた血液が左心房内でよどみ、血栓ができやすくなります。この血栓が剥がれて大動脈を経由して、脳動脈を閉塞すると脳梗塞を引き起こします。心房細動は、自分では気付かないうちに一時的に出て、また消えてしまうことがあります(一過性心房細動)。この場合には、病院で心電図を記録しても『異常なし』となってしまいます。一過性であっても心房細動は、慢性的にある人と同じように脳梗塞の原因となりますので、安心はできません。そこで、少しでも長い時間心電図を記録し、不整脈が出ていないかを確認するのがホルター心電図の役割です。
 心電図検査自体に苦痛はありません。以前は入浴ができませんでしたが、最近の器械はシャワーを浴びることが可能となりました。記録中に何か症状があれば記録をしてもらいます。24時間たてば電極を取り外して検査は終了となります。最近は1週間連続、あるいは体内(胸部)に埋め込み式で最大3年間記録できる器械も出現し、発作性心房細動もより検出されやすくなりました。もし心房細動が検出された場合には、心臓内で血栓ができなくなるような薬の内服が必要となります(図2)。

Ⅲ心エコー(経胸壁超音波検査、経食道超音波検査)
 心エコーは、心臓内にできた血栓が実際に存在するのかどうかを検査するものです。胸からプローブを当てて検査をする場合と、プローブを飲み込んでもらい食道側から心臓や大動脈を観察する方法があります。
 前者は痛みがなく、検査自体は楽にできますが、血栓ができやすい左心房は食道のすぐ裏側にあり、観察しにくい欠点があります。その点、食道に入れたプローブからは左心房内の血栓や心臓内の弁、左右心房内の交通、大動脈壁の形状を観察することができて、より脳塞栓症の原因を特定できることがあります。検査は胃カメラを飲むように行われます。

Ⅳ脳血管撮影(図3)
 脳血管撮影とは、足の付け根からカテーテルという長い管を体の中に入れていき、血管内に造影剤を入れて調べるレントゲン検査です。血管の中を造影剤が流れていく様子を連続撮影します。髪の毛より細い血管でも写し出すことのできる検査で、広く全体を、かつ詳しく一度に血管の状態を知ることができるのが特長です。しかし頻度は低いですが、カテーテルで血管に傷がついたり、血管を詰まらせて脳に障害が起こったりする恐れがありますから、全員に行うことはできません。
 検査の必要性は患者さんごとに異なります。CTやMRIで、より安全に血管を調べることができるようになったので、血管撮影が必要な例は以前より減少しています。それでも、くも膜下出血、脳出血、脳梗塞などの脳血管病変、脳血管内治療の術前、術後などで行われることがあります。レントゲン写真を撮るので軽度の被ばくと、造影剤のアレルギー症状が出現する可能性があります。

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 次回は脳卒中の予防についてです。

12月号より