新型コロナウイルスワクチンについて

 

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 みなさんの笑顔と元気をサポートする「健康ジャーナル」。公立藤田総合病院(国見町)副院長で脳神経外科医の佐藤晶宏先生のお話です。
新型コロナウイルスワクチンについて
公立藤田総合病院
佐藤昌宏先生
福島県立医科大学医学部大学院卒、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科、2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授。
 
 

   

 今回は脳卒中のお話はいったんお休みして、新型コロナウイルスワクチンについてお話します。
ここでは、そもそもワクチンとは何か、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチンは有効なのか、安全なのかについて、一般社団法人日本感染症学会ワクチン委員会のCOVID-19ワクチンに関する提言を参考に解説していきます。

 1.ワクチンとは何か?

ウイルスや細菌などの感染症にかかると体の中で抗体などが作られ、新たに外から侵入する病原体を攻撃するしくみができます(図1)。このしくみを免疫といいます。免疫のしくみを利用したのがワクチンです。ワクチンを接種することにより、あらかじめウイルスや細菌(病原体)に対する免疫(抵抗力)を作り出し、病気になりにくくします。まれに熱や発しんなどの副反応がみられますが、実際に感染症にかかるよりも症状が軽いことや、まわりの人にうつすことがない、という利点があります(図2)。
予防接種には「個人を守る」と「社会を守る」の2つの役割があります。ワクチンはその病気に対する免疫(抵抗力)がつくられ、その人の感染症の発症あるいは重症化を予防することができます。また、多くの人が予防接種を受けることで免疫を獲得していると、集団の中に感染患者が出ても流行を阻止することができる「集団免疫効果」が発揮されます。

 2.ワクチン接種

 欧米ではCOVID-19ワクチンの接種が昨年12月初旬から始まり、少なくとも1回の接種を受けた人は世界で1億人を超えました。米ファイザー社、米モデルナ社、英アストラゼネカ社のワクチンが接種されています。日本でも、ファイザー社のCOVID-19ワクチンが今年2月14日に薬事承認され、2月17日から医療従事者への接種が始まり、4月に高齢者への接種が始まりました。
ワクチンはこれまで多くの疾病の流行防止と死亡者の大幅な減少をもたらし、現在もたくさんの感染症の流行を抑制しています。COVID-19の感染拡大防止にも、ワクチンの開発と普及が重要です。一方で、ワクチンは感染症に罹患していない健常人や基礎疾患のある人に接種することから、きわめて高い安全性が求められます。

 3.ワクチンの有効性

 第Ⅲ相臨床試験の中間報告では、有効率90%以上という優れた成績が認められています。ワクチンの有効率90%というのは「90%の人には有効で、10%の人には効かない」もしくは「接種した人の90%はかからないが、10%の人はかかる」という意味ではありません。接種群と非接種群(対照群)の発症率を比較して「非接種群の発症率よりも接種群の発症率のほうが90%少なかった」という意味です。

 4.ワクチンの安全性

 (1)有害事象と副反応

 有害事象とは、ワクチン接種後に起こる健康上不利益なことです。対照群に比べて、接種群で統計学的に有意に高い頻度で有害事象がみられた場合に、ワクチンによる副反応の可能性が高くなります。しかし、副反応がまったくないワクチンはありません。接種部位には腫脹(腫れ)や痛みなど何らかの局所反応が必ずみられますし、一定の頻度で発熱や倦怠感などの全身症状も一過性にみられます。ごくまれに、接種直後のアナフィラキシーショックなどの重篤な健康被害も発生します。今後、繰り返し投与する場合の安全性や長期的な安全性はまだ明らかになっていません。どのような副反応がどのくらいの頻度でみられるのかを理解し、接種後の健康状態をよく観察しておくことが重要です。

 (2)海外の臨床試験における有害事象

海外での臨床試験では局所反応では、疼痛(痛み)の頻度が70~80%台と高く、疼痛の中でも、ファイザーのワクチンでは、活動に支障が出る中等度以上の疼痛が、1回目接種後の約30%、2回目接種後の約15%に、日常生活を妨げる重度の疼痛が、1回目で0.7%、2回目で0.9%と報告されています。なおこの接種後の疼痛は接種数時間後から翌日にかけてみられるもので、1~2日間ほどで軽快します。
さらに全身反応の有害事象が高頻度にみられています。特に倦怠感、頭痛、寒気、嘔気・嘔吐、筋肉痛などの頻度が高くなっています。発熱(38℃以上)は1回目では少ないですが、2回目の接種後に10~17%みられています。特に高齢者よりも若年群で頻度が高い傾向があります。

 (3)日本での有害事象

 我が国で先行して実施された医療従事者の2万人のデータでは2回目以降37.5℃以上の発熱が全体で38%、65歳以上の高齢者では9%となっています。頭痛が全体で54%、高齢者で20%、全身倦怠感が全体で69%、高齢者では38%となっています。

 (4)アナフィラキシー

 米国の調査で、アナフィラキシーの頻度は100万接種あたり4.5%で、女性が94.5%を占め、アナフィラキシーの既往をもつ人の割合は38.7%、接種後15分以内に77.4%、30分以内に87.1%が発症しています。アナフィラキシーの原因物質のひとつに、ポリエチレングリコール(PEG)があげられており、PEGは薬剤や化粧品などに広く使用されているため、これらに対するアレルギーの既往を持つ方では特に注意が必要です。

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 次回もワクチンについてお話します。

月号より