最初はタヌキに見えた 会津鉄道芦ノ牧温泉駅長・小林美智子さん<2>

 
芦ノ牧温泉駅の「ネコ駅長」就任が決まり、旧国鉄の帽子をかぶったばす。サイズもぴったりで、よく似合っていた

 会津鉄道芦ノ牧温泉駅(会津若松市)は、「ネコが働く駅」になるずっと前から「ネコがいる駅」だった。

 私が駅長になった頃から、なぜか近所の子どもたちは捨て猫を見つけると、駅に連れてきた。だから駅は常にネコと縁があった。

 1999(平成11)年6月、いつものように小学生が捨て猫を連れてきた。体毛が茶色で毛むくじゃらだったので、私は「タヌキじゃないの?」と思った。それが私と「ばす」との出会いだ。

 この時ばすは、小学生が両手で抱えるくらいの大きさ。当時は1歳くらいかと思っていたが、その後飼った「らぶ」や「さくら」の1歳の時より二回りほど大きい。既に3歳くらいだったのかもしれない。

 ばすは体毛の色も走り方も、アニメ映画「となりのトトロ」に出てくるネコバスにそっくりだったので「バス」と名付けた。カタカナだった名前が平仮名に変わったのはネコ駅長になった後。会津鉄道の社長に「鉄道会社なのに『バス』は変だ」と言われたからだ。

 ばすは賢いネコだった。駅に来れば餌をもらえると分かっていたのだろう。朝ご飯を食べて散歩に出かけても昼ごろ、おなかがすくと必ず駅に戻ってきた。賢いと言っても、元は野良猫だったので自由気まま。「うちの軒先で寝ていたよ」と近所の人からよく声をかけられた。

 ばすを駅で飼い始めて9年後、和歌山電鉄(和歌山県)の三毛猫「たま」の影響で「名誉駅長」に任命された時には私も驚いた。「この子で大丈夫?」と思いながら、少しでも駅長らしくしてあげようと、事務所にあった旧国鉄のロゴマーク入りの帽子をかぶらせてみた。すると不思議なことにサイズもぴったりで、よく似合った。「あなたは駅長になるために、この駅に来たのね」。急に威厳が出てきたのがおかしくて、冗談交じりに声をかけた。この時にはまだ、ばすが全国的な人気者になるなんて全く想像できなかった。(聞き手 高崎慎也)