【避難指示解除10年/田村・都路】先代超える和牛の里に

 
東日本大震災後、古里で畜産会社を設立した高橋さん。かつて盛んだった畜産業を先進的な経営で拡大している=田村市都路町古道

 「昔は畜産農家があちこちにいるのが、当たり前だったんだよね」。田村市都路町で畜産会社「和農(わのう)」代表を務める高橋将志さん(39)は、かつての古里の姿を思い返す。

 阿武隈高地の自然に恵まれた都路地区は「和牛の里」として知られ、東日本大震災前は肉用牛の生産が盛んな地域だった。それが、震災と東京電力福島第1原発事故で一変した。

 ただ、都路地区は原発事故に伴う避難指示が2014年4月、第1原発の半径20キロ圏内では最初に解除された。ほかの避難区域と比べ、避難指示が出ていた期間が約3年と短く、被災した中小企業の事業再開への支援、雇用創出に向けた企業立地補助金の活用などの後押しがあった。

 原発事故前の10年度に都路町商工会に加盟していた会員は83事業所で、現在は69事業所が活動している。復興事業に関わる建築・建設業者が多くを占めるが、大規模農業経営に取り組む事業者も新たに仲間入りした。近年は農産物を生産する「A―Plus(エープラス)」が都路地区に進出。20年12月に植物工場を稼働させた。最新鋭の完全閉鎖型工場で、生産するレタスは大手コンビニに採用されるなど、かつてはなかったような企業が商工会に加盟し、活動している。

 都路町商工会経営指導員の佐久間剛さん(44)は「帰還が早かったことで、事業再建の支援を多くの人に紹介できた。加えて、新しく事業を起こしてみたいという人の参入の動きも大きかった」と明かす。

 高橋さんも震災後に起業した一人だ。もともと畜産農家に生まれたが「先代とは違うやり方で先代を超えたい」と独自の畜産経営に乗り出した。雑種の雌牛に受精卵を移植することで黒毛和牛を生産する先進的な手法を取り入れているほか、飼料として稲発酵粗飼料(稲WCS=ホールクロップサイレージ)の生産にも取り組んでいる。

 現在、都路地区ではJA全農福島グループによる乳牛と肉用牛の牧場「復興農場」が整備中で、新年度内には一部稼働する見通しだ。高橋さんは復興農場と連携するため、自家消費だった稲WCSの販売など飼料のビジネス化を進めている。

 復興農場の開所で事業の拡大に大きな期待を寄せる一方、過疎化が進む地区の人材不足が深刻だと感じている。高橋さんは「人がいなければ未来はない。畜産が格好いい仕事だと子どもたちに伝わるようでなければいけない」と先を見据える。

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 復興農場 JA全農福島グループが田村市都路地区に整備する乳牛と肉用牛の牧場。2024年度中に数百頭から飼育を始め、28年度の本格稼働時には2600頭まで拡大する計画になっている。