【エフレイ設立1年】水素の有効性、世界に発信へ

 
矢部 彰(やべ・あきら)氏 横浜市出身。東京工業大大学院博士課程修了。産業技術総合研究所理事などを経て2020年から新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)技術戦略研究センターフェロー。専門は熱工学で、エアコンの高性能化などに貢献した。72歳

 設立1周年を迎えた福島国際研究教育機構(エフレイ)が最重点に位置付けるロボットや農林水産、エネルギーなど研究開発5分野のトップには、国内を代表する研究者らが名を連ねた。各分野の研究内容と将来像について、5人に聞く。

 浪江を舞台に技術確立 エネルギー分野長 矢部彰氏

 ―福島国際研究教育機構(エフレイ)が取り組むエネルギー分野の方向性は。
 「福島をカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)先駆けの地にしたい。例えば、昆布など大型藻類の大規模養殖を可能にする技術を開発する。昆布は20メートルほどに成長する種類もあり、育つ過程で二酸化炭素(CO2)を大量吸収してそのまま海底に固定できる。海藻に取り込まれた炭素は『ブルーカーボン』と呼ばれ、地球温暖化対策として注目されている。海の豊かさを取り戻しながら温暖化対策にも貢献するテーマだ」

 「2点目は、阿武隈高地の森林資源や、遊休農地を活用して栽培した生産性の高いバイオマス作物を原料として、液体燃料を製造する。飛行機や長距離トラックなどに利用を想定しており、CO2排出量を実質ゼロにできる」

 ―エフレイが立地する浪江町は「水素タウン」の構想を掲げている。
 「再生可能エネルギーと水素を地産地消で最大限活用する技術を開発し、町と連携して社会実装(産業化)することを考えている。再エネは発電量が時間帯によって変動する難点があるが、余った電力を水素に変換して貯蔵すれば有効利用できる。電力需要が低い春に再エネを水素としてためておくと、需要が高まる夏に使うことも可能だ。その分、化石燃料を使わなくて済む社会に近づいていける」

 「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)の水素をうまく活用しながら、浪江を舞台に『こんなこともできる』と実証し、世界に水素の有効性を発信したい。浪江で確立した技術が世界中で使われる未来を目指している」

 ―2029年度までの第1期に目指すことは。
 「ブルーカーボン推進とバイオマスの活用、水素の技術開発を3本柱に、いずれも社会実装に近づけ、少なくとも成果が見える段階まで持っていく。初期は外部委託で研究開発を始めるが、コンソーシアム(共同事業体)を組む研究者と知恵を出し合い、スケールの大きな研究に取り組む」

 主な研究テーマ
・大型海藻類を大量養殖し温暖化対策につなげる技術(ブルーカーボンの推進)
・林資源やバイオマス作物を原料とする液体燃料の製造
・水素エネルギーを最大限活用するための技術開発と世界への情報発信

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