【知事選・福島のこれから】学校と地域「連携・協働進めて」

 
ふたば未来学園の校舎内に設けられているカフェ=5月

 本県の教育環境が変わりつつある。新型コロナウイルの感染拡大も相まって進むデジタル化や、少子化に伴う県立高校改革―。本県の未来を担う人材育成に向け、双葉郡教育復興ビジョン推進協議会座長などとして本県の教育振興に関わる福島大特任教授の中田スウラ氏(67)は「年々必要性が高まっている学校と地域社会の連携・協働の具体化が、県内ではまだ進んでいない」と指摘、学校と地域が一体となった持続可能な教育環境構築の必要性を訴える。

 県教委は、本年度スタートした第7次総合教育計画で学校と地域の連携・協働の推進を重点に掲げる。学外の大人との交流や地域課題の探究を通して子どもたちの郷土理解を深め、生まれ育った地域の文化や歴史、自然などを教材にすることで「地域愛」を育むことにつなげたい考えだ。

 しかし中田氏は現状について「学校が地域に支援されているイメージがまだある」と分析、学校と地域が十分に議論する必要があるとした。連携・協働を推進するには、子どもや地域の未来創造に向けた対話と活動を地域に開かれた形で進めることを推奨する。

 県内では、学校と地域の連携に関するさまざまな取り組みが進められ、東京電力福島第1原発事故で避難を余儀なくされた双葉郡では、学校と地域との協働の芽が育ち始めている。ふたば未来学園の校舎には、地域住民が自由に出入りできる地域協働スペースが設けられており、生徒が主体となってカフェを運営し、住民が訪れることで交流が生まれている。

 「地域協働スペースで住民が子どもたちと地域課題を共有し、解決の道を探究する活動を共にすることは、子どもたちの成長を地域で見守り、支え、応援することにつながる」と中田氏。その結果が「大人になってから地域に戻り、次の子どもの世代と関わるといった次世代誕生の循環が生まれるきっかけになる」と説明する。新たに生まれるこの循環は、本県が抱える人口減少という課題解決の一助にもなり得るはずだ。

 震災、原発事故を契機に、本県の子どもたちは、なりわいを継続できないなど地域課題に直面する人たちを目の当たりにしてきた。困難も多いが、中田氏は「地域課題の解決策を考える教育を、実感を持ってできるのが福島の強み」とする。3選を飾った選挙戦を「過去2回に比べ、園児や児童生徒の反応が大きかった」と振り返った内堀雅雄氏。学校と地域が連携・協働し、本県の強みを生かした教育環境をつくり上げることが、子どもたちの期待に応え、本県の未来を担う人材の育成につながっていく。

 福島大特任教授・中田スウラ氏に聞く 子どもに生き抜く力を

 福島大特任教授の中田スウラ氏は、学力向上や少子化など本県の教育が抱える課題について語った。学力向上では、正答率などに重点を置いた従来の学力ではなく、子どもたちがこれからの社会を生き抜くための力を育成する能力を学力として捉える「視点の転換が必要」と指摘した。

 ―本県の小中学生の学力向上が長年の課題となっている。学びの活性化にどんな視点が必要か。
 「これからは不確実性の高い社会であり、教えられた知識、情報、技術を使うだけではなく、それらを活用しながら、どう応用的に実践していくかを考えなくてはならない。従来の学力の考え方から、実践的で対話的、創造的な対応能力を主眼とした学力に捉え直していく必要がある。学校や教員、保護者も含めて学力とは何かを問い直していくことが、子どもたちの興味関心や意欲、主体的な学びを活性化させることにつながるのではないか」

 ―教育や学校の改革をどう進めていくべきか。
 「タブレット端末の導入で、授業だけではなく、地域や家庭での教育の時間が増えていくだろう。今は、タブレットで練習問題に取り組み、子どもたちが『できないこと』を自己点検するという工夫をしている段階だ。自己点検の次は『できないものをできるようになりたい』という意欲を醸成する段階に入る。『計算は自分の生活にどういう意味を持つのか』など、学んだことと社会や生活との関連を見つめ直すような学びに展開していく必要がある」

 ―高校では新たな科目として「公共」が導入された。成人年齢の引き下げも踏まえ、主権者教育をどう進めていくべきか。
 「公共は、生徒を地域の担い手として責任を果たせる社会の一員に育てることにつながる。生徒が社会参画への道筋を学ぶ機会を担保しながら、社会を創造していく主体として育て上げないと、与えられただけの公共理解になる。科目としての公共を巡る課題認識をどう把握し、どう展開し、どう認識するかが大事な点だ」

 ―震災から11年半が過ぎた。人口減少などの課題を抱える中、双葉郡の教育復興についてどう考えるか。
 「震災や、その後の教育環境づくりの経験を双葉郡が発信し、社会で共有する時期に来ている。教育関係者には発信する責任があり、教育改革をリードする最先端の役割を担う可能性を持っている。(双葉郡)8町村は協働で教育づくりをしてきたが、11年半が過ぎたことで個別の課題もあるだろう。今後の連携・協働に向け、その地域に特化した課題も理解し合い、共有できるものについては対話的に探究することで、さらなる協働の筋道をつくり出していくことが必要だ」

          ◇

 この連載は辺見祐介、渡辺美幸、鹿岡将司、柏倉南が担当しました。