【復興の道標・不信の連鎖-6】続く東電の隠蔽体質 「今は答えない方が」

「まだ何か隠しているのではないか。どうにも信用ならない」。林業関係の代表として、これまで東京電力と交渉してきた県森林組合連合会長の秋元公夫(68)=川内村=は今も東電の情報公開に対する姿勢に不信感を拭えない。
森林除染が進まない現場では作業員が線量計を身に着け被ばく線量を管理しており、福島第1原発から放射性物質が再び飛散する事態が起きないか神経をとがらせている。
東電は2月、核燃料が溶け落ちる炉心溶融(メルトダウン)について「判断する社内基準を見過ごしていた」と突如発表した。新潟県が原発事故対応を独自に検証するため設けている技術委員会の指摘に対し、東電は「社内マニュアルに判断基準があったことに気がついた」としている。
東電が炉心溶融を認めたのは2011(平成23)年5月。この間、国には「炉心損傷」と報告していた。マニュアル通りの対応ならば事故から4日目には炉心溶融と判断できた可能性が高い。2カ月も事故を過小評価していたことになるが、東電の担当者は「事故を小さく見せようという認識はなかった」と釈明する。
当時、福島第2原発所長だった福島第1廃炉推進カンパニー最高責任者の増田尚宏(58)もマニュアルを知っていたかどうかに関し「今は答えない方がいい」と会見で繰り返す。所長として当然、その存在を把握していたとみられるが、県民への説明よりも東電という組織の一員として口をつぐむ。秋元は「当然、分かっていたはず。物事を小さくしようとした」と言い切る。
東電は5年間、事故の当事者でありながら汚染雨水の外洋流出や地元市町村への通報遅れなど情報公開の不手際から県民、国民の不信感を増幅させる失態を重ねてきた。
「見過ごしが本当なら、マニュアルさえも引き継げない組織が原発を動かしていたことになる」。原発周辺市町村の住民らでつくる県廃炉安全確保県民会議の議長を務めた福島大特任教授の渡辺明(67)は、東電の企業体質を批判する。一方、判定基準の存在を5年間も指摘できなかった原子力規制委員会など国の責任にも触れながら「その程度のレベルで、事業者を指導していたことに不信感を覚える」。
田村市に避難中の秋元は、不信の根を絶つには積極的な情報公開が欠かせないと考える。「物事の大小、善しあしにかかわらず、東電は包み隠さず公表すべきだ。そうしないといつまでたっても避難者は帰れず、子や孫が安心して暮らせない」(文中敬称略)
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