中間指針見直し追加賠償 東京電力「ふるさと変容」方針明らかに

 

 東京電力福島第1原発事故による損害賠償を巡り、昨年末から今年にかけて二つの大きな動きがあった。

 東電は新たな賠償基準を公表し、原発事故により生活基盤(ふるさと)が様変わりしたため、精神的損害を受けた人を対象に250万円を追加で支払う方針を明らかにした。

 「ふるさと変容」による損害賠償の対象地域は居住制限区域と、大熊、双葉両町を除く避難指示解除準備区域などの住民。第1原発の半径20~30キロ圏内に設定された緊急時避難準備区域(楢葉町を除く)も対象だが、賠償額は50万円とした。

 このほか、東電が追加で賠償する精神的損害の内容は▽第1原発の半径20キロ圏内からの過酷避難に30万円▽相当量の放射線量地域に滞在したことによる健康不安に30万円―など。相当量の放射線量地域は、第1原発から20キロ圏内や圏外の計画的避難区域、特定避難勧奨地点が当たる。

 今回の基準では第1原発の20キロ圏内の居住制限区域と避難指示解除準備区域に住んでいた人がふるさと変容に加え、過酷避難に伴う賠償で最大280万円が支払われる。20キロ圏外の人はふるさと変容と健康不安が追加賠償の対象となる。

 東電が今回の基準を出したのは、文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)が昨年12月、国の賠償基準「中間指針」を第5次追補の形で9年ぶりに見直したためだ。

 避難指示が出た地域以外では、浜通りや県北、県中が含まれる「自主的避難等対象区域」の住民(子ども、妊婦を除く)に8万円の賠償額を上乗せする。原賠審が中間指針第5次追補で、自主的避難等対象区域への追加を見送った県南や宮城県丸森町の住民には東電が自主的に追加賠償する。既に支払った4万円に6万円を追加し、計10万円とする。

 これらの追加賠償とは別に、避難を余儀なくされた人のうち、要介護状態だったり、身体・精神障害があったりした人は月額3万円が増額される。介護をしていた人や、乳幼児を育てていた人、妊娠していた人も増額の対象となる。

 5項目賠償額示さず

 東電は、中間指針第5次追補に記された賠償の増額理由のうち▽重度の障害がある▽避難所の移動回数が多かった―ことなど5項目について、賠償額を示していない。

 東電は今回の基準を公表した1月時点で「3月を目標に可能な限り基準を示す」としている。

 県内首長、地域間格差是正求める

 中間指針第5次追補の決定を受け、県内の市町村長からは地域間に残る「賠償格差の是正」に向け、指針の継続的な見直しを求める声も上がった。

 避難区域以外で精神的損害への賠償金が支払われる「自主的避難等対象区域」への追加が見送られた県南のうち、白河市の鈴木和夫市長は「『因果関係のある損害と認められるものは、全て賠償の対象となる』と示されているため、県や県原子力損害対策協議会を通じて誠実な対応を求める」との考えを示した。

 同じく対象外とされた会津では、17市町村でつくる会津総合開発協議会が1月末、会津を含めて被害実態に見合った指針とするよう文部科学省に要望した。

 風評の損害額、データで算定

 東京電力は、福島第1原発で発生する処理水の海洋放出に伴い風評被害が発生した場合の賠償基準も公表した。水産業、農業、観光業で統計データを用いて風評の有無を確認する仕組みを取り入れる。統計データから、全国の状況と比べて価格が下落していたり、価格の上昇幅が全国より小さかったりした場合に風評被害が起きたと推認し、損害額を算定するとした。

 水産加工や卸業を含めた水産業、農業では東京都中央卸売市場の「市場統計情報(月報・年報)」に基づき、風評被害の有無を確かめる。海洋放出により消費者が購入を敬遠した品目などを把握する狙いがある。

 観光業では観光庁の「宿泊旅行統計調査」から観光地の状況を点検し、観光目的の宿泊者数のデータを参照する。原発事故による損害賠償を巡っては、これまで被害者が風評被害を受けたことを証明する必要があり、統計データを活用することで被害者の負担軽減が図られる利点がある。

 ただ、東電が昨年12月に今回の基準を示して以降、各業界の関係者からは「賠償額に格差が生じ、賠償範囲が限定的になってしまうのではないか」との懸念が出ている。これまでの賠償対応を巡って不満もくすぶっており、東電が被害の実態に即した賠償に応じるかどうかが焦点となる。

賠償基準ポイント