回復の道阻んだコロナ 観光再生...「特効薬はない」地道に前へ

 
会津の観光再生に取り組む渡部さん。「何が有効なのか手探りでも続けるしかない」と語る

 東京電力福島第1原発事故による風評被害を受けた本県観光業の復興は途上だ。関係者の努力で回復基調にあったが、新型コロナウイルスの感染拡大で状況が一変、再生への道を再び一から歩むこととなった。

 県内有数の観光地・会津若松市も例外ではなく原発事故とコロナ禍で観光客数が大きく落ち込んだ。「原発事故前の水準に回復するまであと一歩。コロナ禍前はそんな希望があった」。鶴ケ城などを管理する会津若松観光ビューロー天守閣管理課・公園管理課長の渡部健志さん(53)は振り返る。

 年間60万~65万人で推移していた鶴ケ城天守閣の入場者数は原発事故直後の2011年度に49万2000人に減少。県外や海外からの観光客が遠のいた影響が大きく、海外からのツアー客は821人と前年度(8057人)の10分の1ほどとなった。会津若松市の観光をけん引してきた修学旅行や遠足などの教育旅行も同様で、県外から同市を訪れた学校数は100校と前年度(841校)の8分の1ほどに減った。

 その後、県や市、ビューローなどによる取り組みが実を結び、天守閣の入場者数は回復に転じた。大河ドラマ「八重の桜」が放映された13年度は91万7000人、大型観光企画「東北デスティネーションキャンペーン(DC)」が展開された15年度は63万4000人に上った。

 しかし20年に新型コロナの感染が広がると、再び激減。感染への不安から関東から会津に旅先を変更した学校があり県外からの教育旅行は増えたものの、入場者数は20、21年度と2年連続で30万人を割り込んだ。

 ただ、回復の兆しは見える。昨年4月~今年1月は31万2000人となり、海外からのツアー客も2000人を超えた。渡部さんは当面の目標として「(入場者数を)コロナ禍前の水準に回復させたい」とする。コロナ禍で、原発事故直後のような全国からの支援は期待できないが、やるべきことは変わらないと考えている。「特効薬はない。何が有効か手探りでも、取り組みを続けるしかない」。渡部さんは前を見据えた。

 営農再開は活発化

 避難地域の農業を巡っては、市町村を超えて広域的に生産、加工に取り組み、付加価値を高めていく産地づくりが進んでいる。特定復興再生拠点区域(復興拠点)でも、避難指示解除と合わせて営農再開の動きが活発化している。

 楢葉町に昨年、サツマイモの産地化に向けた苗の供給施設が完成し、新年度以降、生産者に供給を始める予定だ。県内外の加工業者も加わり、楢葉町にはパックご飯、富岡町には加工冷凍野菜の工場の設立が計画されている。12市町村で生産されたコメや野菜の販路を確立し、担い手の確保や営農再開を後押ししていく狙いがある。

 昨年、避難指示が解除された葛尾、大熊、双葉の3町村の復興拠点でも営農再開が進む。葛尾村では水稲、大熊町では野菜や水稲の試験栽培が始まり、新年度からは一部で実証栽培に移行する予定だ。双葉町ではブロッコリーが栽培され、昨年12月に震災後初めて農産物の出荷に至った。

 ほかにもJAグループが進める「園芸ギガ団地」構想で水耕トマトや震災前に栽培されていた「浜風ほうれん草」の復活が計画されている。

 農業産出額は、県全体で震災前の約9割に回復したが、12市町村では約4割。12市町村の営農再開面積も7370ヘクタール(昨年3月末時点)と原発事故で休止した農地の約4割にとどまっている。県は2025年度までに、休止面積の6割に当たる約1万ヘクタールを再開する目標を掲げており、広域的な産地化や避難指示解除地域での営農再開への支援を続ける。

 観光客、事故前と同水準に

 震災、原発事故のあった2011年に本県を訪れた観光客数は3521万1010人と前年の6割程度まで落ち込んだ。12~14年に4000万人台、15年に5千万人台に回復し、19年には5634万3689人と原発事故前と同水準となった。

 原発事故以降、観光客数は毎年、前年を上回ってきた。ただ新型コロナウイルスの感染拡大で行動制限などが出された20、21年は再び3000万人台に低迷した。従業員10人以上の旅館やホテルなどに宿泊した外国人数を見ると、11年は10年比73%減の2万3990人にとどまった。風評などが影響して回復の動きは鈍かったが、18年は14万1350人、19年は17万8810人と2年続けて10万人を上回った。20年はコロナ禍の水際対策で5万1180人に落ち込み、21年は2万390人とさらに減少。11年の実績も下回った。

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 観光立県の構築進める

 県は原発事故後、観光業の再生に向けた各種事業を展開、観光立県の構築を進めている。

 2012~22年度の県一般会計当初予算のうち、観光交流課所管分は約219億1313万円に上る。震災後初めての予算編成となった12年度は観光のイメージアップに向けた事業に加え、大河ドラマ「八重の桜」の放送を契機とした観光誘客を事業に並べた。

 14~16年度はJRグループとの観光企画「デスティネーションキャンペーン(DC)」を契機とした旅行商品の造成や観光PRに取り組み、国内外に復興の進展や観光地としての魅力を発信した。16年度からは復興の進展を発信する独自の旅行施策としてホープツーリズムを始動させ、教育旅行を中心に利用が進んでいる。

 自然環境や風土を生かした旅行商品を造成する動きも目立つ。非日常の体験を売りにした「エクストリームツーリズム」や日本酒など発酵文化を体験できる「発酵ツーリズム」の本格導入を見据える。インバウンド(訪日客)戦略にも重点を置き、多言語表記の設置など訪日客の受け入れ態勢も強化していく方針だ。