葛尾の畜産業、復活への歩み「若い人に期待持ってもらえるように」

 
畜産業の再生を目指して事業を拡大している吉田さん(左)と、社員として働く長女の愛梨朱(ありす)さん=葛尾村

 東京電力福島第1原発事故で避難指示が出るなどした12市町村では、発生から間もなく13年となる今も、原発事故で大打撃を受けた地域の基幹産業をよみがえらせようという取り組みが続いている。

 ビジネスの幅広げる

 「まだまだスタートラインに立ったばかり。若い人たちに、『葛尾村で畜産業ができるんだ』と期待を持ってもらえるよう、頑張りたい」。葛尾村で畜産業を営む「牛屋」の吉田健(つよし)代表(49)は強い決意をにじませる。

 父親が一代で築いた牧場を18歳の時から手伝い、黒毛和牛を育ててきた。震災と原発事故で避難指示が出ると、約1300頭の牛を隣の田村市の牧場に避難させるため奔走した。「牛が1頭もいなくなった牛舎を見て、『必ず戻ってくるんだ』という気持ちになった」。当時の悔しい気持ちを昨日のことのように覚えている。

 2016年に村に出ていた避難指示が一部解除されると、吉田さんは営農再開を決意。17年9月に牛屋を創業し、村内に土地を借りて3頭の牛を飼育するところから再出発した。昨年4月に村が整備した施設に移り、規模を拡大。頭数を増やし、現在は約250頭の肉用牛のほか羊、ヤギを飼育する。

 黒毛和牛の飼育ノウハウを生かして羊肉事業を始めるなどビジネスの幅を広げている吉田さんは「生産から加工、販売までやることで利益が追求できる。自信のある肉をもっと食べてもらえるようになりたい」と前を向く。

 村内再開農家は15軒

 村によると震災前、畜産農家は村内に繁殖と肥育合わせて約100軒あったが、昨年8月現在で畜産業を再開した農家は15軒にとどまっている。村は、福島再生加速化交付金を活用して肉牛の繁殖・肥育のための3施設と、乳牛用の1施設の整備に着手。今年1月に4カ所目となる最後の施設が完成した。施設を意欲のある農家に無償貸与することで事業拡大を後押ししている。

 村はこのほか、畜産業に関心を持つ人を地域おこし協力隊として募集するなどしており、さまざまな取り組みを通じて基幹産業の畜産業の再生を目指している。