【明日を創る(8)】ビジネス現場が教室 秋田商高(秋田県秋田市)

 
企業と開発した商品を販売する生徒=10月19日、秋田市のJR秋田駅前

◆地元企業と共に商品開発し販売 

 秋田市の秋田商業高(石井潔校長、生徒710人)は、地元企業と共に菓子や総菜などの商品を開発し、販売するビジネス実践活動「AKISHOP(アキショップ)」を行っている。「総合的な学習の時間」を使い、2002年度に始めた独自のキャリア教育。生徒は売れる商品作りに知恵を絞り、毎年秋のイベントで販売する。学んだ知識を実践に生かし、地域社会を担う自覚を育む狙いだ。

◆自分のアイデア形に 

 今年は2、3年生443人が春から商品作りに取り組んだ。まずはアイデアをまとめ、企画書を携えて地元企業に"営業"をかける。協力を得られたら、企業と試作を重ねる。実社会さながらに企業訪問、商品案のプレゼンテーション、交渉を経て、アイデアを形にしていくというわけだ。

 「菓子の絵の色は濃いめがいいね」「デザインはこれでオーケー」。9月下旬、秋田商高の各教室では、10月の販売イベントを前に生徒が商品の最終確認をしていた。秋田犬の顔をプリントしたサブレを完成させた生徒たちは、思い描いた通りの仕上がりに満足そうな表情を見せた。

 活動を統括する桜庭咲子教諭(42)によると、生徒はそれぞれに市場調査をした上で商品を考案するが、コストや市場性などを基に企業と絞り込むため全てが採用されるわけではない。こうして「企業と接しながら、ビジネスの重要な視点を学んでいく」という。同校は県内唯一の商業科単独の専門高校。マーケティングや会計などを学んでおり、AKISHOPはそうした学習の成果を実践する場として位置付けられている。

 今年は、ご飯を団子状にしただまこ餅の入った「だまこチーズカレー」、タピオカ入りのプリン「タピリン」、串に刺した「ぐさっとブラウニー」など多彩な41点がそろった。人気商品は、依頼を受けて首都圏のイベントなどで販売することもあるだけに、どれも力が入っていた。

販売に向け、商品を最終確認する生徒=9月26日、秋田市の秋田商高

 本番の10月19日、会場のJR秋田駅前や秋田市民市場は多くの人でにぎわった。お菓子や弁当を購入した同市の40代女性は「昨年買っておいしかったので楽しみにしていた。個性的な商品ばかりで見ていて楽しいし、一生懸命さが伝わってくる」と話した。

 3年の加藤舜基(みつき)さん(17)は三つのカレーパンの一つに激辛カレーが入った「ロシアンルーレットカレーパン」を販売。「香辛料が一つだけ入っているお菓子をヒントにした。企業の方に『子どもやお年寄りも楽しめるように』とアドバイスを受けて辛さを調整した。他にも数種類作ったが、価格設定が難しかった」と振り返った。

 「豚バラミルフィーユ弁当」を販売した3年の佐藤七海さん(18)は、売れ行きの良さに満面の笑み。総菜店と相談し、ご飯の上に甘じょっぱいたれで焼いた豚バラ肉を敷き詰め、2層に重ねた。評価を肌で感じられたことが何よりもうれしかった。

 生徒はAKISHOPを通じてさまざまなことを学んだようだ。佐藤さんは「企業とのやりとりは緊張したし、大人に自分の思いを伝えるのは苦労したけど、さまざまな方と関わりながら物を作っていくのは素晴らしい体験だった。就職してからも生かせたらいいな」と前を向いた。
 (秋田魁新報社政治経済部・高橋さつき)

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◆学びを生かしている 加藤 勇人さん
 
 AKISHOPが始まった当初から、商品開発に協力しているのが秋田市のたけや製パンだ。加藤勇人営業部次長(50)は「最近は商品のレベルも上がってきていて驚きますよ」と目を細める。

 今年、同社では生徒が提案した三つの商品を製造。完成までに生徒と修正を繰り返した。

 「高校生のアイデアに、売れるための"スパイス"を加えるのが腕の見せどころ。価格を抑え、どこを工夫したら売れそうかアドバイスする。試行錯誤しながら完成に近づけていくことは、生徒にとって重要な経験になると思う」と力を込める。

 近年は商品のコンセプトが明確化していると感じるという。「以前は『こんなパンが食べたい』と話すだけだったのが、最近は、どんな人に売りたいか、何が商品のPRポイントなのかなどを絞り込んでいる。学んだ知識を生かしている」と感心する。

 毎年、生徒たちの案を楽しみにしているとし、「若い世代が何に関心を持ち、どんな商品を求めているか知ることができて面白い。今後も協力していけたら」と話した。

◆時代性表れて面白い 佐藤 拓也さん

 秋田商高OBも協力している。AKISHOPのチラシ製作などを担っている同市の広告代理店・アイキアプランニングの佐藤拓也さん(25)はチラシのデザインを考えたり、商品の写真撮影をサポートしたりし、効果的なPRの方法を指導している。

 「お菓子の写真なら、そのまま撮るより、切って断面を見せた方が分かりやすい」。こんなふうに生徒と会話しながら、どうしたら良くなるか考えてもらうよう心掛けている。最近は写真共有アプリ「インスタグラム」を意識したカラフルな商品が多く、「時代性が表れて面白い」と話す。

 自身も社会人になり、AKISHOPの意義をあらためて感じるという。

 「企業と一緒に商品の企画から販売まで体験できることはなかなかない。この活動を通じ、生徒が社会に出てからの自分の姿を思い描くきっかけになればいい」とエールを送った。

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