音カフェで富岡を笑顔に 広島から移住、山本さん夫婦の決意

 
店のカウンター越しに客と談笑する進さん(左)と公恵さん

 東京電力福島第1原発事故からの復興へと歩む富岡町に今年3月にオープンした音楽を楽しむ喫茶店「音カフェ721」。経営するのは広島県福山市から移住した山本進さん(66)と妻の公恵さん(63)だ。夫婦は「音楽と笑顔があふれる店にして、街ににぎわいをつくりたい」と復興への貢献を誓った。

 被災地で支援活動

 山本さん夫妻は東日本大震災後、宮城、岩手両県でボランティアを行ったり、福島の子どもを広島に招いたり、チャリティーイベントを開いて義援金を被災地に送ったりと支援を続けてきた。そして、震災10年の節目となった2021年に双葉郡を訪れたことが、人生の転機となった。

 進さんは、国道6号を通過した際に目に飛び込んできた荒廃した風景に衝撃を受けた。「故郷を追われた人々は今も苦しんでいる。まだこんなに大変な場所があるのか」。双葉郡の助けになりたいと同年7月に単身で富岡町に移住し、トラック運転手となって復興事業に従事した。

 広島にいた公恵さんは進さんが心配で富岡町を訪れ、進さんと同様に双葉郡の光景に驚いた。「同じ日本なのに...」。夫婦で復興のために生きようと決め、翌22年1月に公恵さんも移住した。娘の反対はあったが「復興のためにまずは居住しなくてはいけない。福島に骨を埋める覚悟を決めた」という。

 富岡町は帰還町民が少なく、街のにぎわいが乏しい。そこで人が集まる喫茶店を経営することを決め、街中の中古住宅を購入して1階を改装した。音楽好きのため店内でライブができるようにした。店名は、音楽を楽しむ意味と、結婚記念日の7月21日からとった。夫婦で復興に取り組んでいく決意の表れだった。

 常連と日々楽しく

 未経験の喫茶店経営に当初は不安だった。開店から約9カ月がたち、今では常連客が増え、定期的に音楽ライブも開き、街中の交流拠点になっている。カウンター越しに夫婦は「自分たちのペースで精一杯やっていきたいね」と声をそろえた。今日も夫婦が織りなす復興のハーモニーが店内に響いている。(国分利也)