【復興の道標・賠償の不条理-7】前向く思い阻むもの 「頼り切り」に懸念も

「どうしてこんな狭いところにいなければならないの」。福島市の仮設住宅に夫と2人暮らしの浪江町請戸の女性(78)は、室内で一人涙することがある。請戸の自宅では畑で自家用の野菜を作り、近所に配るのが生きがいだった。「トマトおいしかったよ」と言ってもらえるのがうれしかった。「ここには何もない」
自宅は5年前、津波に流された。流失した自宅の建物は賠償の対象にはならず、生活の頼りは年金と月10万円の賠償金。避難前から年金生活だったが、そのころは働いて生活を支えてくれる家族がいた。今は別々に避難している。
年金だけの生活は不安で、賠償が続くなら助かるが「もう賠償は終わるんだということも分かっている」と言う。
市内に建設される復興公営住宅に移るつもりだ。「将来は『福島市民』になるのだろう」。請戸出身者としてのさみしさと、覚悟が入り交じる。最近、野菜作りに代わる「生きがい」を見つけた。週1回の社交ダンス教室だ。体を動かし、終わった後みんなでお茶を飲んでいると幸せを感じる。
原発事故から11日で丸5年。不安を抱えながら、「賠償後」の生活を思い描く避難者たち。前を向く思いに応える公的な支援が求められる。その一方で、気持ちが自立に向かわない避難者もいる。
「ずっとこの仮設住宅に居続けたいと思っている」。富岡町の男性(68)は、入居者がまばらになった大玉村の仮設の集会所前に座り、そうつぶやいた。
隣に復興公営住宅ができたが、家賃を払わなければならないため、移りたくない。町は2017(平成29)年春に帰還を始めることを目標にしているが、男性はまだまだ町内の自宅には帰れないと考えている。
テレビを見たり、たき火に当たるくらいしかすることがない退屈な日々。「全部東電が悪いからこうなった。賠償が続かないと困るよ」
賠償や支援に頼り切りになる一部の避難者の存在が、支援者の間で懸念されている。将来が見通せない生活を強いられていることに加え、「無理やり避難させられた」という被害者意識の高まりも背景にある。男性は苦笑いとともにつぶやいた。「賠償が終わったら、最後はホームレスになっちまうかもな」
救済のための賠償金が避難者の自立を難しくしている状況は、福島県が抱える大きな課題だ。
(2016年3月10日付掲載)
※「賠償の不条理」編は今回でおわります。近日中に番外編を掲載します。
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