【復興の道標・復興バブル後-6】新産業をどう育てる 将来につながる形に

「期待が大きい半面、不安もある。自分たちはどう関わっていけるのか」。福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想の中核を担うロボット実証拠点が整備される南相馬市。工場を構える門馬工業所の社長佐々木哲男(63)は製造ラインを見守りながら率直な思いを語る。
震災から5年。ロボットや宇宙・航空産業など産業復興に向けた夢のある計画が動きだしている。政府と県が進めるイノベーション構想では、広大な土地に大規模災害を想定したさまざまな設備を設け、国内外の研究者が災害対応ロボットを実証する計画だ。ただ地元にどんな仕事が生まれるのか、見通せない。
相双では震災後、深刻な人手不足が続く。福島労働局が発表した3月の有効求人倍率は、相双が2.21倍と地域別で唯一、2倍を超す。門馬工業所でも震災後、従業員21人のうち中堅の4人が退社。補充できたのはつい数カ月前だ。特に新卒の採用が難しい。「商機はたくさんある。地元がどう関わるか、プランを早く見たい」。イノベーション構想に期待を寄せる。
佐々木は昨年、地元製造業経営者や大学、自治体などでつくる「南相馬ロボット産業協議会」の2代目会長に就いた。実証拠点の整備に合わせて今後、ロボット産業参入の動きを本格化させる。会員企業の精密加工技術をメーカーに売り込むなど、計画を地元に根付いたものにするため積極的に動いていくつもりだ。
県内では震災後、国の復興支援メニューを活用してさまざまな新産業が生まれた。宿泊客が激減し、旅館の廃業が相次いだ福島市の土湯温泉では、温泉熱を生かした発電事業を導入し、収益を街づくりに投資する会社を設立。地熱発電によるエコツーリズムを始め、集客につなげている。
土湯温泉観光協会事務局長の池田和也(58)は「復興予算で元の姿に戻っても、少子高齢化や雇用など根本的な地方の課題は解決できない。箱物や一時的なイベントではバブルで終わってしまう」と指摘。「復興予算が将来につながるような形で使われてきたかが問われる」と引き締める。
一方、「バブル」の影響すら受けていない地域もある。会津地区商工会連絡協議会長の渡部文一(65)=南会津町、会津酒造社長=は「人も金も、恩恵のないまま耐えてきた。会津の復興は済んだように言われるが、会津若松周辺部では観光客がほとんど戻っていない」とつぶやく。「風評の実態を見てほしいと訴え続け、今年になって国や県の幹部が視察に来るようになった。今、やっと動きだしたところだ」(文中敬称略)
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