【復興の道標・復興バブル後-7】避難者の自立後押し 賠償金が「足かせ」に
「自分は自分の『復興』に向け、前に進むことができていると感じる。だが、勤めている会社が震災と原発事故でなくなっていたら、今頃どうなっていたか」。建設会社で働く天野博史(43)は、この5年を振り返る。
南相馬市小高区から避難し、最近、原町区に新居を構えた。原発事故を機に仕事を失った避難者が多いことを知っている。「30代後半、40代になって再就職するのは楽でない」。震災前から勤める建設会社で今でも続けて働けている自分は幸福に思える。
震災から5年、これまで仕事を見つけることができなかった避難者は、これから人生の転換期を迎えるだろうと、天野は指摘する。「賠償があるうちは仕事がなくても生活することができた。賠償金の支払いが終われば、働くことを考えざるを得ない状況に直面することになる」
避難者に支払われる月10万円の慰謝料などのお金は、一部の人の勤労意欲を低下させた。「賠償金が続いているうちは、それで生活していこうと安直に考えている人が少なくない。賠償金が打ち切りとなり、そのまま生活保護に移行する、などというのは問題だ」。避難者の中でも、主に高齢者や生活弱者への対応を担う県社会福祉協議会の担当者は指摘する。「賠償後」を見据え、昨年施行された生活困窮者自立支援法の枠組みで就職などの相談に応じ、避難者の自立を後押しする考えだ。
建設や医療福祉分野を中心に人手不足が続いている相双地方。復旧・復興作業が続いていることや震災直後に住民が避難したことのほか、賠償金を受けている避難者の一部が働かないことが、人手不足の要因として指摘されたこともあった。
だが、そうした県内の復興需要は変化しつつある。「相双の有効求人倍率は、依然2倍を超えているとはいえ、低下傾向にある」。南相馬市商工労政課長の星高光(53)は指摘する。
南相馬市は昨年度までの2年間、市外から来た人も含め地元で1年間働いた人に10万円を支給する事業を行っていた。しかし、本年度からは地元事業所の職場環境の改善の取り組みに補助金を出す事業に切り替えた。緊急に働き手が必要な時期は去り、今後も地元に残ってくれる労働者のための施策こそ必要だとの判断からだ。星は言う。「復興需要はいずれなくなる。これからは労働者の地元定着に目を向ける」(文中敬称略)
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