旋律で元気届けたい 双葉町出身の箏奏者、大川義秋さん

 
アクアマリンふくしまの大水槽前で演奏会を開いた大川さん。桜をテーマにしたオリジナル曲などを奏でた=3月、いわき市

 被災地出身で活躍の場を広げている芸術家の一人が、双葉町出身の箏(そう)奏者「箏男kotomen(コトメン)」こと大川義秋さん(28)だ。大川さんは震災と原発事故から丸13年を迎えた3月11日、双葉町の東日本大震災・原子力災害伝承館で構成劇「音楽と語りによるフクシマの伝承と未来―請戸小学校物語」の舞台に立った。当時小学6年生だった浪江町民や、ふたば未来学園高の生徒、同年代の和楽器奏者たちと一緒に、音楽を通して災害時の教訓を伝えた。

 劇に参加したふたば未来の生徒たちは震災の記憶がない世代。災害をテーマに生徒たちと話し合ったが、当時を知らない世代だからこそ、どんなことが起きたのかを吸収しやすいのではないかと感じたという。「避難の経過や経験を話すことも大切だが、その時にどう思ったかという感情を伝えて話し合う方が理解が深まる。『つらかったね、自分もあの時つらかった』と話が展開しないことが、新鮮だった」と振り返る。

 箏との出合いは、原発事故が起きた2011年、避難先の埼玉県で入学した高校の部活動。双葉中の吹奏楽部で演奏していた頃を思い出し、箏の演奏に魅了された。卒業後は自作の華やかな衣装をまとい、立って箏を奏でる独自のスタイルを確立し、現在は国内外での演奏会や動画配信などでファンを増やしている。

 本年度も多数の海外公演予定が控える。その合間に「今の思いを忘れないように」と、オリジナル曲の制作も欠かさない。海外活動を経て、曲にも変化が生まれてきた。「以前は『人々に寄り添って心を癒やしたい』と思って曲を届けていた。でも、この半年ほどは『自分の曲で元気になってほしい』『自分についてきて!』という気持ちが強くなってきました」と話す。

 本県発信へ思い強く

 避難直後は不安を抱えていた大川さん。さまざまな経験をした今、その目は広い世界をしっかり見つめている。震災を試練と受け止め「13年間で自分の中のもやもやしたことを解き放った。『人前で話したいけど話せない』などの悩みを一つ一つ解決してきたんです」。

 復興が進みつつある古里の姿を目にし「人が団結すれば町が変わるんだ」と実感し、双葉町や福島県に貢献したいとの気持ちがより一層強くなった。「子どもたちが『福島で仕事をしたい』『福島大好き』と言ってくれるように、僕も力になりたい。これからも福島と共に歩み、一緒に福島を発信していきたい」