「クラフトビール」ここだけの味求めて 青森・八戸市

 
タンクが並ぶ醸造所で、坂本さん(左)と一つ一つ確認し合いながら仕込み作業を進める山形さん=2021年12月、青森県八戸市

 「このビールうまい」。2011年、訪問先のドイツで口にしたビールの味に衝撃を受けた青森県八戸市の山形琢一さん(65)が、20年3月、市内にクラフトビール醸造所「カネク醸造」を設立した。自ら立ち上げた会社を息子に任せ、全く畑違いの、新しい味を生み出すことにセカンドライフをかけた山形さん。クラフトビール造りの先には、若手人材の育成や地域連携という大きな目標も掲げている。

 ノウハウ次世代に継承

 1991年、八戸市で産業機械修理を手掛ける「ハード工業」を創業した山形さん。機械の摩耗した部分に溶融金属を吹き付けて皮膜を形成する「容射(ようしゃ)」専門で始めたが、機械加工、電動機(モーター)と事業の幅を広げ、従業員二十数人の会社に成長させた。

 その山形さんが「カネク醸造」を設立したのは2020年3月。岩手県の醸造所での研修、酒造免許の取得、市から取得した旧給食センターの改装と着実に準備を進め、約1年後、初の仕込みにこぎ着けた。

 クラフトビールは「最終的においしく仕上がればいい、という自由さが魅力」と山形さんは話す。現在全国にある醸造所は500以上で、増加傾向だという。麦芽やホップといった材料の量・質、加熱する際の温度・時間など、無限の組み合わせから生まれる多彩な味がファンを広げている。

 当初は飲食店に樽(たる)でビールを販売する計画もあったが、コロナ禍で頓挫。それでも瓶売り中心に切り替えるなどした結果、地元スーパーなどで販売してもらえるようになった。「かつては地域ごとに豆腐屋や味噌(みそ)屋があった。各醸造所が良い意味で競争し、新しい地域の味になっていけば」。その願い通り、認知度はじわじわと高まっている。

220123miraikaigi2.jpg※カネク醸造のクラフトビールは、市販されているほか、イベントや宴席で提供されることもある

 現在は季節限定を含め6種類のビールを販売。さらに、青森県佐井村の村民有志でつくるプロジェクトチーム(PT)が休耕地で育てた生ホップ18キロを使ったビールも醸造している。村は、クラフトビールを地域おこしの一つの核にしようと醸造所を独自に整備する計画で、実現段階では、山形さんも醸造所の建築や醸造技術の面で積極的にアドバイスしていく考えだ。

 PTリーダーの奥本太朗さん(50)は「(山形さんは)経営者としても経験が豊富で素晴らしい方。何よりクラフトビールにすごく熱意があり、こちらも刺激になる」と語る。

 山形さんの熱意は若手育成にも向かっており、工場長の坂本健太さん(33)に醸造技術を教え込む毎日だ。坂本さんはクラフトビール造りに引かれ、21年5月に入社したばかり。そんな坂本さんに、山形さんは「人間力をつけて、経営者になってほしい」と大きな期待を寄せる。坂本さんも「チャンスをいただけるなら応えたい。自分がおいしいと思う味を出しつつ、地域に貢献していきたい」と未来を描いている。
(東奥日報社報道部・熊谷慎吉、千葉康之)

 「若い人を育てるため活躍の場必要」 カネク醸造会長 山形琢一さん

220123miraikaigi3.jpg

 クラフトビール造りに第二の人生をささげる山形さんに、創業のきっかけや現在の手応えなどを聞いた。

 ―クラフトビールを造ることになったきっかけは。
 「2011年、東北大金属材料研究所との共同事業の一環でドイツのカールスルーエ工科大に行った際に飲んだ白ビール(ヴァイツェン)が、とてもおいしかった。ただ帰国したら売っていない。ちょうどクラフトビールブームが起きたので、造ってしまえ、と考えるようになった。それ以前から60歳で引退し、何か別の事業を起こし、若い人を育てようと決めていた」

 ―人材育成を考えるようになったのはなぜか。
 「どこに行っても恥ずかしくない若い経営者を育てないといけないという危機感が一番。ハード工業の創業前に全国的な企業に勤めていた経験からすると、青森県の会社は仕事が甘い。怒りも褒めもしない―という育て方では、青森県の会社が全国に通用しなくなってしまう。若い人を育てるため、まずは活躍できる場が必要だと考えた」

 ―目指す地域連携とは。
 「青森県内の材料を使うことによって、大手ビール会社に行っていたお金が数%でも地元で回るようになる。佐井村の村民有志が育てた生ホップを使ったビールを醸造中。八戸市や三戸町の果物を使ってみたいとも考えている。仕込みを終えた麦芽やホップのかすは、肥料として農家に還元することにした」

 ―コロナ禍でのスタートになった。手応えは。
 「飲食店と連携し、常にカネクのビールを飲める形にしたいと考えていたが、できなくなった。ただ瓶売りに方向転換したことにより、お客さんの間口が広がったのではないか、と楽天的に考えている。ビールを飲むことができる機会を設けるなどして、さらにファンを増やす努力をしたい」

 ―目指すビールは。
 「飲んだら『カネクのビール』と分かるような、ホップが効いた、香りの良いビールを造りたい。青森県内の多くの家庭に『スタミナ源たれ』があるように、冷蔵庫に必ず入っているビールになることが目標だ」

220123miraikaigi4.jpg

 

 このシリーズに関するご意見、ご感想、応援メッセージを募集します。はがきかファクス、メールに住所、氏名、年齢、職業、電話番号を明記し、福島民友新聞社編集局「東北・新潟みらい会議~あしたをつくる、地域の新たな可能性~」係までお送りください。

 ▽郵便番号 960―8648 福島市柳町4の29  ▽ファクス 024・523・1657  ▽メール hodo@minyu-net.com

【東北・新潟8新聞社共同企画】 福島民友新聞社 東奥日報社 岩手日報社 秋田魁新報社 河北新報社 山形新聞社 福島民報社 新潟日報社

 次回は30日 秋田県の話題を紹介します