【福島県知事選・最前線ルポ】避難地域/生活環境などどう改善

 
親子連れらでにぎわう感謝祭の会場。避難地域の復興は進んでいるものの、課題は多岐にわたる=16日、大熊町

 商業と交流、宿泊温浴が一体となった複合施設として、大熊町に、ちょうど1年前に開所した「交流ゾーン」。知事選告示後初めて迎えた週末に1周年を記念した感謝祭が開かれ、親子連れらでにぎわった。震災と原発事故に見舞われた11年半前には想像し得なかった光景に復興の進展をみる住民もいるが、帰還困難区域のうち、特定復興再生拠点区域(復興拠点)から外れた地域の対応や生活環境の整備、産業振興など、避難地域が抱える課題は多岐にわたる。

 感謝祭会場の一角、地元事業者と共に物販テントを並べた「ネクサスファームおおくま」の社員横川圭介(36)も、古里の未来のため挑戦を続ける一人だ。会津若松市やいわき市と避難生活を送るさなか、地元にできた植物工場でイチゴの栽培が始まることを知り、避難指示が一部解除された2019年春に町に戻った。農業の仕事は初めてで苦労も多いが、「新しいことに挑戦できるのは面白い。イチゴが町の新しい名産品になり、今後何十年と続いていく産業となるように頑張りたい」と前を向く。

 この11年半で避難指示の解除が進み、市町村によって進度は異なるものの、帰還や移住に向けた動きは本格化している。国家プロジェクトの福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想も取りまとめから8年がたち、中核拠点として福島国際研究教育機構の整備計画が進む。横川の目には、県が国や町と歩調を合わせて避難地域の復興を「着々と進めてきた」と映る。一方で周りを見れば同年代はほとんど町に戻っておらず、買い物など身近な生活環境には不便さが残り「やっぱり震災前とは違う」とも感じている。

 告示日に双葉郡の街頭で演説した現職の内堀雅雄は「震災前にあった当たり前の生活環境を取り戻し、多くの人に安心して古里に戻ってきてもらうため、やるべきことがたくさんある」と県政の継続を訴えた。選挙初日に浜通り入りするのは初出馬の8年前、2期目の4年前と同じ。応援でマイクを握った双葉郡の首長や内堀が、共に葛藤しながら復興を進めてきたとして、互いを「戦友」と称する場面もみられた。

 新人の草野芳明陣営は原発で発生する処理水の海洋放出方針を巡る対応やイノベ構想など現県政の政策が「県民の方を向いていない」と批判を強める。いわき市で15日に開いた決起集会で草野は「国がどう言っても県の判断で覆せる。県民の立場で国にものを言う知事でなければならない」と強調。陣営幹部は「イノベ構想では浜通りの復興を名目に膨大な金を費やすのに自主避難者には寄り添わない」と切り捨てた。(敬称略)