【みんゆう特命係】4市着用率4.9% 自転車ヘルメット・1カ月

 
福島市の県道で調査を行う記者。ヘルメットを着用していたのは数えるほどだった

 道交法の改正で、自転車乗車時のヘルメット着用が努力義務となって1カ月が経過した。だが、街中を見ていると、ヘルメットをかぶっている人の姿はまばらで改正前とあまり変化を感じない。着用率はどれくらいなのか知りたいが、そのような調査結果はなさそうだ。福島民友新聞社は福島、会津若松、郡山、いわきの4市の自転車通行量が多い路線で着用状況を調べた。

 福島市は3.2%

 調査した4地点は、いずれも通勤や通学などで自転車通行量が多い路線。調査結果は計1668人中、ヘルメットを着けていたのは81人で、着用率は4.9%にとどまった。いわき市が8.2%で最も高く、郡山、会津若松の両市が約5%、福島市は3.2%と最も低かった。

 制服を着た高校生とみられる人のうち、ヘルメットを着用している人は数えるほどだった。後ろに乗る子どもがヘルメットを着用し、運転する大人が着けていないケースも見られた。

 改正道交法では、自転車に乗る人のヘルメット着用が全年齢で努力義務となった。着用率を向上させ、死者や重傷者の減少につなげる狙いだが、罰則はない。通行者に話を聞くと、努力義務になったことは知っていても、着用に至らない現状があるようだ。

 いわき市の高校2年の男子生徒(16)は「着けたら安全なのは分かるが、周りも着けていないし、着けるのは何となく恥ずかしい」と苦笑いし「みんなが着けるようになったら着けようかな」と続けた。

 「髪形崩れる」

 他の生徒からは「着けると髪形が崩れるから嫌だ」といった声が上がる一方、丸刈りでヘルメットを着けていない男子生徒の姿もあった。若い世代では、周囲に合わせようとする日本の国民性と、思春期特有の気恥ずかしさが相まって着用が進んでいないのだろうか。

 大人の世代では、着用、未着用とも「慣れ」が一因になっているようだ。郡山市の女性(67)は「長年着けていないから、急に着けろと言われても」と首をかしげた。着用していた、いわき市の会社員男性(36)は「自転車が趣味なので、ヘルメットは持っていた。4月からは通勤時も着けるようにしている」と話した。

 県警もヘルメット着用が進まない現状を把握しており、交通企画課の担当者は「高校生や高齢者など、ターゲットを絞った啓発活動をしていきたい」と見据える。

 交通事故対策などに詳しい福島大共生システム理工学類の永幡幸司教授は「罰則がないため『着けなくて済むなら着けない』という人はいる」と指摘。「新型コロナウイルス下のマスクと一緒で『着けなければいけない』という社会の共通認識ができれば着けるようになっていく」と推察した。

 努力義務となって1カ月。始まったばかりではあるが、現状では効果が大きいとはいえず、着用率を上げるためには「てこ入れ」が必要となりそうだ。(報道部・国井貴宏、三沢誠)

自転車通行者のヘルメット着用状況

 【調査の方法】調査地点は、県警が自転車指導啓発重点路線に位置付ける福島市の飯坂街道、会津若松市の国道118号、郡山市のさくら通り、いわき市の鹿島街道の4路線周辺。4月後半の平日午前7時~同8時半と同10時~正午に行い、記者が目視で確認した。通勤や通学と、高齢者の移動が多いとみられる二つの時間帯に分けた。雨天は避けた。

 後ろにヘルメットを着けた子どもを乗せていても、運転する大人がヘルメットを着けていなければ、未着用1人として数えた。

 事故「誰もが遭う」

 本紙調査により、自転車利用者のヘルメット着用が努力義務になっても着用率が低い現状が浮き彫りになった。着用率向上に向け、識者らは「罰則がない以上、デザインなどを向上させたり、ヘルメット着用のメリットを加えたりする必要がある」とみる。

 「ヘルメットのデザイン性を高めてはどうか」。県警本部で2月に開かれた福島大共生システム理工学類の学生による交通事故分析の発表会で、田辺隼斗さん(21)らは提言した。

 県内の自転車事故を分析した結果、ヘルメット着用者はけがの程度が明らかに軽かった。その上で着用率向上に向け、「高校生にはヘルメットは『ダサい』『髪形が崩れる』というイメージがある。おしゃれだったら着けたいと思うのでは」と考えた。

 同学類の永幡幸司教授(53)はデザインの向上に加え、着用すると得をする仕組み作りを提案する。「ヘルメットを着けて店舗を訪れるとポイントがもらえるなど、メリットをつくるのも一つの案だ」

 一方、永幡教授は着用率が低い要因について「多くの人は自分が事故に遭うことを想像できない」と根本的な課題を指摘する。

 追突事故のように自身が安全運転を心がけても巻き込まれる場合がある。永幡教授は「ヘルメットをしていれば守れる命がある。人の意識を変えるのは難しく、繰り返し必要性を伝えなければならない」と話す。

 永幡教授の講義を受けた田辺さんは事故を間近に感じている一人だ。4歳上の姉が小学生の時、自転車に乗っていて車にはねられ、半年間、目を覚まさなかったという。姉は事故当時ヘルメットを着けていて、その後回復した。

 田辺さんは「姉がヘルメットをかぶっていなかったらと考えると、ぞっとする」と振り返り「自転車事故に関して学んだことや努力義務になったことを身近な人から伝えて、事故減少につなげたい」と話した。

 田辺さんらは県警での発表会で「年代や性別に関係なく、自転車事故の危険性は平等にある」とも示した。なぜ法律が改正されてヘルメットの着用が努力義務となったのか。その意味を考える必要がある。