【みんゆう特命係】子どもの成長に有効だが...砂場の質「快適」遠く

 
(写真上)公園の砂を手に、状態を説明する笠間教授=福島市(写真下)砂で遊ぶ親子。砂場は連日一番人気で、造形や触り心地を楽しむ姿が多く見られる=福島市・道の駅ふくしま

 「子どもが『砂場で遊びたい』と言うので探したが、近くに見つからない」。福島市の女性から「みんゆう特命係(ゆう特)」に、無料通信アプリ「LINE(ライン)」でこんなメッセージが届いた。取材を進めると、砂場は住宅地の公園などに数多く存在しているものの、多くは遊びに適しているとは言い難い砂の質であることが分かった。幼少期の発達に大きな意味を持つ砂場。その実態に迫った。

 福島市公園緑地課によると、2022年3月末現在、市内には578の公園に計170基の砂場がある。同年3月に砂場をメインとする屋内遊戯施設「さんどパーク」が閉所したが、砂場の数自体は依然多く、身の回りから急速に姿を消しているわけではない。

 しかし実際に複数の公園を訪ねると、見るからに硬そうな砂場は多い。離れて幼児と遊んでいた30代女性は「かちかちの砂場で子どもを遊ばせようとは思わない」と言い切った。

 砂場が身近に感じられない理由はここにあるのか―。砂場を30年以上研究している同志社女子大の笠間浩幸教授(いわき市出身、幼児教育学)に見解を尋ねると、意外な答えが返ってきた。

 「子どもが夢中で遊ぶ砂場を数多く分析したところ、『砂』の割合が95%以上という共通点が見えてきた。ただ現実は多くの砂場がそうなっていない」

 JISに沿って土を分類すると「砂」は0.075~2ミリ未満と規定される。笠間氏によると、それより大きい「れき」や小さい「シルト・粘土」が多くまじるとざらざらしたり、粒同士の隙間が埋まって「かちかち」になったりしやすいという。

 そこで取材班は福島、会津若松、郡山、いわきの4市で、近くに小学校や幼稚園、保育園などがある街区公園を各3カ所無作為に抽出。各市の許可を得て、砂場を掘り起こした上で少量の土を採取し、関西地盤環境研究センター(大阪府)で分析を試みた。

 調査の結果、砂の割合は69~89%で、95%に達した砂場はゼロ。12カ所全てで「改善が必要」(笠間氏)とされた。笠間氏が昨年、全国主要8都市の幼稚園と保育園計58園で実施した調査でも約9割(53園)が95%未満だったという。一方、過去に調べた棚倉町の砂は96.1%、11年12月に開所した郡山市の屋内遊び場「ペップキッズこおりやま」は98.2%が砂だった。

公園の砂場の調査結果

 笠間氏は「砂の割合が小さければ遊びにくいのは当然。砂遊びは発達に重要な意義を持つのに、砂の質は教育者の間でも気にされてこなかった」と指摘。砂場の砂は一律の基準がなく、産地や納入業者によっても質はまちまちだという。

 笠間氏は「いい砂は触れるだけで楽しく、子どもの好奇心や意欲を引き出す。まずは適切な砂を入れることが大切だ」と提言する。

 見直される砂場

 福島、会津若松、郡山、いわきの4市の街区公園にある砂場計12カ所(1市当たり3カ所)を福島民友新聞社が調査したところ、砂の割合は69~89%にとどまり、子どもの遊びに適しているとは言い難い実態が浮かんだ。今回の結果を受け、4市からは驚きや戸惑いの声が上がった一方、「国に基準を示してほしい」と要望する意見も聞かれた。

 街区公園だけで220カ所あるいわき市は年1回、全ての公園を点検し、砂が減っていれば専門業者を通じて補充している。ただ、担当者は「数が多く(十分な)管理が難しいところもある」と吐露。「業者からは当然『砂』が入ってくると認識していた。どのような砂が遊びやすいのかは、私たちも分からない」と語った。

 福島市は「風で砂以外が舞い込むなど、長い年月である程度、状態が変わることはあり得る」と指摘。改善に向け「専門家の見解を基に、国が基準を示してくれると、より遊びに適した砂場になる」と求めた。

 砂場の砂については一定の目安がある。国土交通省が監修し、日本公園緑地協会がまとめた都市公園技術標準解説書は「原則として洗浄された細粒の川砂」を推奨。同協会によると「細粒」は0.075~0.25ミリ大で、同志社女子大の笠間浩幸教授が提唱する範囲より、さらに限定的だ。

 同協会は「望ましいものとして示しているが、強制ではない。子どもの遊びやすさを念頭に、各自治体が判断してほしい」と訴える。

 この解説書を参考にしている郡山市は「(調査対象の3カ所は)最近造った砂場ではなく、現状に至った経緯が分からない」と説明した上で「業者から納入される砂が川砂として品質を確保していれば承認する」との見解を示した。

 会津若松市は「毎年、雪解け後に砂場を掘り起こすなどの対応を取っているが、今回の調査結果や専門家の見解を踏まえ、子どもが遊びやすい砂を極力使うように考えていきたい」とした。

 魅力伝える場続々

 子どもの想像力と五感を刺激し、海外では「最良の教育者」とも呼ばれる砂。近年は新型コロナウイルス感染拡大などを受け、砂遊びの意義を見直す機運が各地で高まりつつある。県内では東京電力福島第1原発事故後に砂場の魅力を伝える団体が発足し、多様な活動を展開している。

 「富士山ができた!」。週末、福島市大笹生にある道の駅ふくしまの屋内遊び場に男児の声が響いた。昨春開所したばかりで最新の遊具が並ぶが、連日の一番人気は砂場。何組もの親子が一緒に遊ぶ光景は、砂遊びの需要を物語っていた。

 白河市から息子2人と訪れた会社員男性は「砂に触れて遊ぶのはいい経験。気が付いたら自分も夢中になっていた」と汗を拭った。

 原発事故が契機

 原発事故後、県内では放射線による健康への影響を心配する子育て世代などに配慮し、屋内遊び場が各地に続々と開設された。砂場を備えた施設も多い。

 「外遊びが制限されたことで、福島の保育関係者は砂場の重要性を痛感した」。福島市で認定こども園の園長を務めた河内ひろみさん(62)は、保育関係者の思いを口にする。河内さんは遊戯施設への砂場の導入事業に携わった後、2016年に仲間とNPO法人「福島サンドストーリー」(福島市)を設立した。

 活動内容は県内外での「良質な砂」体験会やアート展、保育関係者向け研修会など。使った砂については、保育施設や公園など約80カ所に寄贈してきた。

 「子どもの育ちを豊かにするため、砂の魅力を福島から全国に発信したい」と河内さん。近年は都市部で砂場を造る動きが相次ぎ、子育て世代の関心の高まりを感じるという。受け皿となる砂場を増やしていく考えだ。

 一方、公園の砂場では犬猫の排せつ物や雑草が見られるところも多い。使われなくなった砂場は各地で撤去が進む。河内さんは「子どもの成長を第一に考え、砂場を地域の皆で守っていく意識も必要になる」と話す。

 棚倉は「良質な砂」積極活用

 「学校や幼稚園に砂を入れる際は町内の砂を」。棚倉町子ども教育課の担当者は代々こうした引き継ぎを受けているという。

 きっかけは、NPO法人福島サンドストーリーの関係者が2017年12月、町役場で湯座一平町長に伝えた一言だった。「棚倉の砂は遊びに大変適している」。湯座町長は「町の地べたには大量の宝物があると気付かされた」と振り返る。

 砂を採取する棚倉産業によると、採取地はかつての海底が隆起した場所。川砂と比べて粒が小さく、手触りが良いという。分析では粒の96.1%が「砂」に分類される0.075~2ミリ大の範囲に収まっていた。町は砂の積極的な活用に乗り出し、教育プログラムに砂遊びを取り入れた。町産の砂は現在、東白川郡全域や県北、県中両地方の砂場でも使われている。

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 砂場 公園や教育・保育施設に設置される遊具。手足の感覚や想像力を刺激し、造形などを通じて発達を促すとされる。かつてはブランコ、滑り台とともに公園の「三種の神器」と呼ばれたが、1993年の都市公園法改正により設置義務が消えた。国土交通省の調査によると、全国の都市公園の砂場は2010年の5万1546基をピークに、19年は4万9595基と約4%減った。