【5月7日付編集日記】古文書

 

 小説家の安岡章太郎が、高知の父方の家系を題材にした時代小説を連載していた時に、書き出した後から資料が出てきたという。親戚の座敷の壁紙からは、幕末期の日記が貼り付けられているのが見つかった

 ▼高知を訪れて、別の座敷のふすまを調べると、そこからも書き付けが出てきた。一枚一枚はがすうち、一瞬ごとに蒸発していくような時代のにおいと無数の文字の手触りを通じて、歴史に肉薄する感じがあったそうだ(「風のすがた」世界文化社)

 ▼原発事故により全町避難を経験した双葉町で、被災した家屋などから救出してきた古文書の整理が行われている。手紙や書き付け、土地に関する書類などが集まり、整理中の文書の量は60箱に及ぶ

 ▼作業には筑波大やふくしま史料ネットのメンバーらが参加し、汚れなどを落とした後に細かく記されている内容を読み解く。崩れそうにみえる文書を丁寧に扱い、目録をつくる現場には、独特の緊張感がある

 ▼町教委には、現在も家屋の解体に伴う新たな古文書の発見の連絡がある。将来に向けた新たなまちづくりと、埋もれそうになった過去を後世に伝える取り組み。一つ一つが重なることで、被災地の歴史がつながっていくはずだ。