【健康長寿・地域ぐるみ(3)】生活激変...偏る食事『避難メタボ』

 

 「座った状態で足踏みをして、3の倍数の時だけ手をたたきましょう」

 浪江町地域スポーツセンターで今月5日に開かれた健康スポーツ教室。数人の参加者を前に、女性インストラクターが指示を出す。椅子に座った参加者は50まで数えながら足踏みし、「3」「6」「9」といった数の時に手をたたく。「うまくできた」「難しいね」。このほか音楽に合わせて体を動かすなど、約1時間にわたり教室は続いた。

 教室は東京電力福島第1原発事故による一部地域の避難指示解除で帰還した住民の孤立や生活習慣病などを懸念し、運動や交流の場になればと昨年7月にスタートした。NPO法人県スポーツマネジメント協会が運営を担当し、月3回程度開かれている。「大勢が集まるほどではないが、教室があることで家の外に出るきっかけになれば」。浪江町出身で同協会代表の山田司さん(37)は教室のメリットを話す。

 1人は続かない

 町内で1人暮らしの山崎正人さん(76)は若干高めの血圧を下げようと、教室にこの日初めて参加した。「1人で運動をしようとしてもなかなか続かない。みんなと一緒ならそれについていこうとなるからね」。原発事故前は妻や娘、孫ら5人で暮らしていたが、事故後は県内5カ所で避難生活を強いられた。3年前に妻が病死。娘と孫は福島市に残し、山崎さんは1人で浪江の自宅に戻った。「1人暮らしだと体を動かすのは難しいし、自分が好きなものしか食べない。偏った食事をしてしまうので食生活の面も心配だね」

 「医療費」県平均超

 健康や食生活の対策は、避難などで町民の生活環境が激変した浪江町全体の課題でもある。町が4月に策定した健康づくり総合計画によると、生活習慣病による町民1人当たりの医療費は、糖尿病や高血圧性疾患などで県平均を上回っている。メタボとその予備軍は町民全体の37.88%と、県平均の32.23%を5ポイント近く上回った。町は「避難生活や生活環境の変化から生活病が増加したり、体を動かす機会が減少しているのではないか」と分析する。

 このため町は糖尿病の重症化予防対策を本格的に始めた。健康診断で血糖値が高い人などの相談を受け付け、専門医の受診を勧めたり、健康教室の参加を提案するなどしている。

 現在、町内に住む約4割が65歳以上の高齢者。原発事故を機に同居家族が減った町民も少なくない。そうした中、町民がどう健康を維持、改善していくか手探りが続く。「移動手段がなく、家の外にあまり出ない住民にどうアプローチするか。情報を町外に発信することも必要で、地域が一体となって活動に参加してもらえるようにしていかないといけない」。山田さんはこう指摘した。