【 識者は語る 】 大熊町教育長・武内敏英氏

 
【 識者は語る 】 大熊町教育長・武内敏英氏

 福島民友新聞社は2014年11月から半年余りにわたり、県内の子どもに関するさまざまなデータを分析しながら、実情と課題を連載で追う「子どもたちは今−ふくしまの現場」を掲載してきた。この中では震災、原発事故から丸4年が過ぎた今も、かつての日常を取り戻せていない子どもたちに出会い、その解決の道を考えた。一方で、県外に残る誤った認識とは違って、たくましく生きようとする姿もあり、周囲に希望をもたらしていた。連載終了に合わせ、2人の識者に課題と対応について、あらためて語ってもらった。

 変化をプラスに捉えて

 震災から5年目に入ったが、避難している子どもたちの現状を見ると、どこか地に足が着かない面が残っているように感じる。古里に戻るため避難を続けるのか、移住を決め落ち着くのかという大人たちの迷いがそうさせているのだろう。

 大熊町では、2011年度の入学予定者数と本年度入学者数との比較で、中学生が374人から43人、小学生が736人から68人に激減した。双葉郡の学校ではこうした状況への対応も課題となっている。

 課題解決に向けては、縦の連携、横の連携とも重要だ。縦は、今年から会津若松市内に避難中の大熊幼稚園の園舎を、同じく大熊小の隣に移し、つながりを強化した。小学4年以上の児童は昨年から、大熊中の部活動に参加し、先輩と触れ合う機会を増やした。

 横については、大熊小で同市の別の小学校と連携した教育も展開している。少人数では集団活動が身に付きづらいと指摘されるが、教員が児童一人一人ときめ細かく向き合える。

 古里との絆をどう維持していくかも課題だ。震災前と比べ、高校の進学先は県内外に広がり、絆づくりの面では逆境といえる。そこで授業で取り入れているのが「ふるさと創造学」。町の農家に田植えや町特産の農産物などを教えてもらったり、応急仮設住宅で高齢者らと交流したりする。古里から離れたが、大人になったときに思い出す古里が、創造学で学んだようなものであってほしいと願う。

 総合的な学習の時間では放射線教育も行っている。原発の賛否など政治的な問題に結び付きやすいため配慮しつつ、教師が知識を押し付けるのではなく、子どもたちの自主性を促すことが重要だ。将来県外に出ても、考え方がしっかりしていれば、仮に福島への偏見にぶつかっても立ち向かっていけると考えている。

 県立中高一貫校「ふたば未来学園高」に併設される県立中学校の開校など、今後は双葉郡の教育復興の動きが進む。開校に伴い、「既存の学校の児童、生徒数が一層減るのでは」などの懸念もあるが、変化をプラスに捉えなければならない。既存の学校も少人数制の利点などを打ち出し、さらに魅力ある学校をつくり上げていく必要がある。

 たけうち・としひで 大熊町出身。福島大教育学部卒。大熊中校長、津島中校長などを歴任した後、2002(平成14)年10月から現職。双葉地区教育長会長や県町村教育長協議会副会長も務め、双葉郡の教育復興をリードする。71歳。