【 三春町・斎藤の湯「元湯下の湯」 】 二つの歴史守り継ぐ地元の愛

郡山市街地から三春町へ。大滝根川のせせらぎの音が聞こえてくると、もうすぐそこ。「斎藤の湯 元湯 下の湯」は、夏になると周辺の田んぼにホタルも見つけられるという、自然豊かな地にたたずむ湯どころだ。そこには地元住民の愛が支えた、伝統が息づく二つの湯がある。
起源は約120年前にさかのぼる。初代浦山亀太郎が田畑を耕している最中、泉を発見。羽を痛めたキジが毎日その泉につかり続けると、みるみるうちに傷が治ったといい、亀太郎が村の人々にも泉を勧めると、体を癒やす湯治場として広まった。その湯は先代の名から「亀の湯」と呼ばれるようになった。その歴史の通り、長年「薬湯」と呼ばれて親しまれてきた。5代目の勇樹さん(34)が「杖(つえ)をついてきた人が3日間くらい通ったら、杖がいらなくなったと聞いたことがある」と教えてくれた。
とはいえその亀の湯、水量が少なく、浴槽は大人3人が入れるほどだ。将来を見据え、立ち上がったのは3代目の故庄一さんだった。1992(平成4)年に新たに掘削、そこは「庄の湯」と名付けられた。
「亀の湯より庄の湯のほうがラドンの含有量が多く、泉質はいい」と4代目社長謙一さん(59)。設備の関係で亀の湯をなくす道もあったというが、常連さんの猛反対にあった。「常連さんには逆らえない」と、今ではそれぞれの泉を沸かすため、採算度外視でボイラーを二つ稼働している。広い庄の湯ができた後も、亀の湯だけに入り続ける人も多いという。常連の思いが伝統の湯の歴史をつないだ。
◆功績たたえる碑
泉質は単純弱放射能の冷鉱泉。10度以下の源泉を、ボイラーとまきを併用し、42~43度まで加温する。水素イオン指数(pH)は肌の刺激が少ない中性でラドンの含有量が多く、よく体を温める。確かにつかっていると、じわじわと汗が止まらなくなる。それでも体がじっくり温まる感覚が心地よく、休憩を挟みながら40分。気が付けば、バスタオルまで持ち込んで汗をぬぐっていた。
湯船で、10年ほど前から通っているという郡山市の80代女性と一緒になった。腰痛に悩んでいるが、「入ると少し良くなる」という。この日は早朝から入り始め、午後3時の時点でなんと4回目の入浴。「普段は5、6回は入る」と笑って見せた。
自然の風を感じながらゆっくり過ごせる、静かな湯だ。個室もある休憩室では、客が思い思いの時間を過ごしている。食事はうどん、そばをはじめ、定食や丼ものも人気だ。
裏には地元住民が建てたという、亀太郎の泉を見つけた功績をたたえる碑が残っている。時代が変わっても変わらず、人々の身と心を支え、支えられながら守る伝統がそこにはある。
【メモ】斎藤の湯 元湯 下の湯=三春町斎藤字惣角地83の1。日帰り入浴は大人330円、小学生210円、3歳以上170円。利用時間は午前8時~午後8時(入館は同7時)。
≫≫≫ ほっとひと息・湯のまちの愉しみ方 ≪≪≪
【暮らしに彩り添えるヒント】「下の湯」から郡山方向へ、車で5分。レストランや雑貨店が集まるマーケット「BRITOMART」には、暮らしに彩りを添えるヒントを教えてくれる店が並ぶ。自然食ランチビュッフェが人気のレストラン「SARARA」をはじめ、一杯ずつバリスタが入れるコーヒーを味わえるカフェがある。パン店、ケーキ店も並び、広い飲食スペースでリラックスした時間を過ごすことができる。洋服や雑貨、インテリア、ガーデニング用品の販売のほか、ヨガも楽しめる。時間は午前10時~午後5時(SARARAは午前11時~午後4時、ヨガはクラスによる)。12~2月の火曜日と年末年始は定休。
〔写真〕焼き菓子やパンなどが並ぶ店内。奧には飲食スペースもある
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