【 猪苗代町・沼尻温泉 】 疲れ流す「塩抜きの湯」 農閑期の癒やし

安達太良山の西麓、自然豊かな山中にある猪苗代町の沼尻温泉。源泉は中ノ沢温泉と同じで、湧出量は毎分1万3400リットルと、単一の湧出口からの湧出量としては日本一の湯量という。古くから薬効の高さが評判で湯治場として親しまれた。力仕事で塩分を多く取る農家は、農閑期に湯につかり余分な塩分を出そうとしたことから「塩抜きの湯」と呼ばれる。
中ノ沢温泉から東に約2キロ。中ノ沢温泉街の中は通らず、手前で分岐する道を進む。かつて硫黄鉱山や軽便鉄道で知られた地。ホテルや旅館、ロッジが数軒点在する静かな温泉地だ。すぐ近くには東北で最も古い歴史を持つ沼尻スキー場がある。今回目指したのは田村屋旅館。到着すると、同旅館代表で4代目の渡部恒一郎さん(53)が迎えてくれた。
沼尻温泉は1751(宝暦元)年に開湯した。田村屋旅館は1886(明治19)年に創業。その14年後、安達太良山が噴火し1年間の休業を余儀なくされた。その後再開し、1920(大正9)年に沼尻の湯元から約4キロ離れた現在の場所に移転して今に至る。
◆湯の花で色変化
1階にも内湯がある。ただし今回は大浴場のある2階に案内してもらった。浴室へ足を踏み入れると、内湯と露天風呂が見えた。どちらも浴槽は檜(ひのき)製。温泉旅館に来たぞ! と実感できる趣だ。泉質は酸性泉で、水素イオン指数(pH)は2.1、源泉の湯温は57度。硫黄臭が強そうなイメージで訪れたが、実際はそこまで強くはない。
内湯は浴槽が広く、掛け流している。一瞬、緑がかって見えた。が、よく見ると湯は澄んだ無色透明。ごく細かい湯の花が舞っている。「湯の花の量でいろいろな色合いに見えます。まるで牛乳風呂みたいに白っぽくなる時もありますよ」と渡部さんが教えてくれた。
湯口から注がれるお湯は、やっぱり熱々。加水用のホースが出ていて、熱い時は水で温度を調整する。湯に入ると肌が少しぴりぴりした。酸性泉ならではの醍醐味(だいごみ)だ。近くにコップがあり、飲めるという。飲んでみる。すっぱい。口の中が引き締まる感じがした。胃腸の湯と評判で、ほかにも糖尿病や神経痛、皮膚病に効能があるという。
取材は10月の雨の日だった。いざ露天風呂へ。屋根付きなので平気だが、内湯よりは幾分ぬるい。それでも体の芯からじんわりと温まる。目の前に広がる庭で、色づき始めた草木がぬれる。景色に感心していると、「春は桜、冬は雪景色が見られますよ」と渡部さん。ゆったりと湯につかって四季折々の風情が楽しめそうだ。
湯上がりはすっきり。体の疲れがとれたようだ。大浴場近くには日帰り入浴者用の休憩所がある。湯上がりのひととき、くつろぐ人たちの姿は、みんな幸せそうに見えた。
【メモ】沼尻温泉 田村屋旅館=猪苗代町蚕養字沼尻山甲2855。日帰り入浴(午前10時~午後4時)は大人800円、小人500円。
≫≫≫ ほっとひと息・湯のまちの愉しみ方 ≪≪≪
【もちもち食感に程よい甘さ】沼尻温泉への上がり口にある「宝来堂製菓」は温泉客やスキー客、ドライブ客に人気の、創業50年の老舗だ。2代目の日出山征一社長と妻美知子さんら家族で営んでいる。目玉は、つぶあんが入ったよもぎ団子を磐梯山周辺のクマザサで包んだ伝統の「笹(ささ)だんご」(4個入り500円)。もちもちした食感と程よいあんこの甘さが人気だ。古代米を使い、ずんだあんが入った「紫黒餅」(6個入り740円)や7月に発売した新商品「クリームボックス大福」(4個入り500円)も好評だ。買いに来てくれた人には「笹だんごの天ぷら」を振る舞っている。営業時間は午前8時~午後5時。元日以外は営業。
〔写真〕沼尻温泉への上がり口にある「宝来堂製菓」
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