車で入りやすく

　東日本の交通の大動脈、国道４号沿いにある須賀川市の「ドライブインかなざわ」は、大型トラックや作業車が集まる。親子３代、半世紀以上の歴史を持つ店は、心温まる手料理で労働者らのおなかを満たしてきた。「店を育ててくれた須賀川に恩返しを」。３代目店主の金沢正樹さん（３６）は、亡くなった初代店主の祖父倉男さんの意志を受け継ぎ厨房（ちゅうぼう）に立つ。

　１９６８年、倉男さんが４０歳の時に開店。高級料亭の板前として腕を振るっていた倉男さんは須賀川市に縁もゆかりもなかったというが、なぜ料亭の料理人が大衆食堂に...。倉男さんは多くを語らなかったが、正樹さんは「誰でも気軽に料理を楽しんでもらいたかったのだと思う。料理を作ることではなく、誰に料理を提供するかを大切にしていたんじゃないか」と推測する。

　店は車で入りやすい「ドライブイン」の形式を採用。自家用車もあまり普及していなかった時代だったが「これからは車社会になる」と倉男さんは店の前に大きな駐車場を備えた。予感は的中した。国道沿いに２４時間営業のコンビニはなく、駐車場のある店も少なかった。作業車や農家の軽トラックなどが店の前に押しかけ、朝早くから夜遅くまで多くの来客があった。高度経済成長期で国道の整備や車の普及も進み、店は繁盛した。

　今でも正午ごろになると、駐車場はあっという間に埋まり、最大８０席の座席もいっぱいになる。「昼休憩は限られている。なるべく早く料理を提供したい」。正樹さんと父正智さん（６３）、母美津子さん（６２）は連携し、調理や注文をこなす。倉男さんの時代から店を知る料理長の先崎富芳さん（７２）の存在も大きい。勤続４５年以上の"料理の鉄人"は手際よく料理を作り、客の期待に応える。

　豊富なメニュー

　「何度来ても楽しんでもらえるように」と、メニューは海老（えび）フライやしょうが焼きなど約４０種類と豊富だ。その中でも「ニンニクミソたれ焼肉定食」は創業当時から不動の人気を誇る。すりおろしニンニクがあえられたパンチの効いた塩辛いみそ味はご飯のおかずにぴったり。「これだけでおかずになる」「みそだけで売ってほしい」という声も上がり、客をとりこにする。

　ニンニクみそは倉男さんが研究の末に生み出し、代々受け継がれてきた門外不出のレシピだ。受け継がれたのはレシピだけではない。「多くの人においしい料理を届けたい」という倉男さんの信条を、正樹さんは大事に守っている。

　正樹さんは約６年前に店を継いだ。幼い頃から祖父や父の背中を見てきたからか「この店を残していきたいと、どこかで思っていた」。祖父や父からは「好きなことをやっていい」と言われていたが、３０歳ごろに塾講師の仕事を辞め、店に入る決心をした。

　時代は違えど店の味と思いは変わらない。正樹さんは「ゆかりもなかった祖父と、この店を受け入れてくれた須賀川のまちにお返しをしていきたい」と鍋を振るう。食事に満足した客は再び車で走り出す。ドライブインかなざわはこれからも、そんな働く人たちの味方であり続ける。（千葉あすか）

国道４号沿いに店を構える「ドライブインかなざわ」。大型車両も止められる広い駐車場を備える

【住所】須賀川市森宿字ヒジリ田５４の３３

【電話】０２４８・７５・２８３９

【営業時間】
午前１０時～午後３時（午後２時半ラストオーダー）、午後５時～同９時（同８時半ラストオーダー）

【定休日】木曜日

【主なメニュー】
▽ニンニクミソたれ焼肉定食＝１０５０円
▽ホルモン定食＝９８０円
▽しょうが焼肉定食＝１０５０円
▽鳥唐揚げ定食＝９９０円
▽桜サシミ（馬肉）定食＝１４００円
▽カツカレーライス＝１１５０円
▽ヒレソースカツ丼＝１２００円
▽ソースカツ丼＝９５０円
▽特製もつラーメン＝９８０円
▽タンメン＝６８０円
▽五目中華＝７８０円

不動の人気を誇る「ニンニクミソたれ焼肉定食」（手前）。肉が２枚盛り付けられた「Ｗ（ダブル）」はボリューム満点だ

　「紅の豚」お宝並ぶ

　店内の一角にはジブリ映画「紅の豚」コーナーが設けられている。「紅の豚ファン」の正樹さんが約３０年前の映画公開当時からこつこつ集めた品々が並ぶ。映画には入りきれなかったシーンのイラストや公開当時のグッズなどもあり、貴重なお宝がたくさん。多くの来客がカメラを構えるフォトスポットとしても知られ、呼び物の一つになっている。正樹さんは「食事とともにコレクションを楽しんでほしい」と呼びかける。

　　　　　　　　　　◇

　ＮＨＫラジオ第１「ふくどん！」で毎週木曜に連携企画

　まち食堂物語は福島民友新聞社とＮＨＫ福島放送局の連携企画です。ＮＨＫラジオ第１で毎週木曜日に放送される『ふくどん！』（休止の場合あり）のコーナー「どんどんめし」で紹介される予定です。