運転手らに人気

　浅川町の「多満留（たまる）食堂」は、本県と茨城県を結ぶ交通の要衝、国道１１８号沿いで約５０年にわたり営業している。近隣住民から遠距離ドライバーまで幅広い客層に愛される店で、ご飯時になると軽乗用車から大型トラックまでが駐車場を埋め尽くす。店主の小宅（おやけ）直美さん（５６）は「うまくて早いをモットーに、お客さんのおなかを満たしていきたい」と思いを語る。

　店は１９７５年、直美さんの父でトラック運転手だった正一さんと母ミヨさんが開いた。正一さんは荷物を運ぶ道すがら、食堂やドライブインに立ち寄って外食する機会が多かった。全国津々浦々のおいしい料理を楽しむうちに飲食店経営に興味を抱き、自らの田んぼを埋め立てて食堂をつくったという。当時小学生だった直美さんは「気付けばおやじが食堂をやっていた。勢いで始めたのかな」と笑う。

　開店当初、近くに２４時間営業のコンビニや飲食チェーンはほとんどなかった。店は東北や関東、北信越を行き来するトラック運転手の集いの場になった。当時は携帯電話もない時代で「うちの誰々は来ているか」と運送会社から電話が入り、店にいた運転手に受話器を取り次ぐこともあった。夜食を済ませた運転手が駐車場のトラックで仮眠し、朝になると出ていくのも日常の光景だった。

　ドライバーの心をよく知る正一さんは、盛りがよくおいしい料理を迅速に提供することにこだわった。ニンニクやしょうゆでしっかりと味付けした焼肉定食や、やわらかく煮込んだもつ煮定食などが評判になった。店の人気と比例して客足が伸び、店の周りにあった田んぼは少しずつ駐車場に変わっていった。

　そんな店は現在、直美さんと妻三智子さん（５６）、長男功貴さん（２４）の親子３人で切り盛りする。先代からレシピがほぼ変わっていない焼肉定食やもつ煮定食を筆頭に、ラーメンやカレー、トンカツなどの幅広いメニューをそろえる。三智子さんの実家や知り合いの農家から寄せられた新鮮な野菜もふんだんに使い、客の胃袋をつかんでいる。

　ファミリー層も

　直美さんの代になってからはファミリー層も訪れやすい店づくりを心がける。店内を禁煙にして子ども用の椅子を取り入れるなどの工夫を講じた結果、今では家族連れも多く訪れる店になった。直美さんは「昔は親と一緒に来ていた子どもが成長し、自分の恋人や子どもを連れてくるとうれしくなる」と感慨深げに話し、功貴さんは「お客さんとの会話が楽しくてやりがいを感じる」と笑顔を見せる。

　長年店を支えてきた「トラック野郎」との縁は今でも深い。現役の運転手だけではなく、引退したドライバーが数十年ぶりに店を訪れることもしばしば。直美さん自身もトラック運転手として働いていた経験があり、運び先の話題や荷物の積み方などの業界トークに花を咲かせる。

　「食を通じたお客さんとの交流が何よりも楽しい。ずっと続けていきたい」と直美さん一家は語る。味と盛りが自慢の料理と、誰でも気兼ねなく入れる雰囲気を併せ持った「たまり場」をこれからも守り続けていく。（秋山敬祐）

浅川町の多満留食堂。水戸市から須賀川市を経由し会津若松市につながる国道１１８号沿いに店を構える

【住所】浅川町里白石字宿裏２２８

【電話】０２４７・３６・２３６７

【営業時間】
昼は午前１１時～午後３時（同２時３０分ラストオーダー）、夜は午後５時～同８時（同７時３０分ラストオーダー）

【定休日】火曜日

【主なメニュー】
▽焼肉定食＝１０００円
▽もつ煮定食＝９００円
▽レバニラ定食＝９００円
▽カツカレー＝１１５０円
▽カツ丼＝１０００円
▽みそタンメン＝８００円
▽ワンタンメン＝８００円
▽ネギみそタンメン＝９００円
▽唐揚げセット＝１１５０円

豚ロースのボリュームで常連客からも人気の焼肉定食。左奥のもつ煮（単品）はご飯のおかずや酒のつまみとして注文が多い

　趣味は「一人登山」

　直美さんは３年ほど前から「一人登山」を趣味にしている。これまでに北アルプスの槍ケ岳などに挑戦した経験を持ち「自分の力で山を登り切って、景色を眺めると達成感がある」とその魅力を語る。店内には登った先で撮影した写真も飾られている。

　登山後は事前にリサーチした温泉に入り、疲れを癒やすのが何よりの楽しみだ。一人で登る理由については「気ままに行動できるから楽なんだよね」と笑う。

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　ＮＨＫラジオ第１「ふくどん！」で毎週木曜に連携企画

　まち食堂物語は福島民友新聞社とＮＨＫ福島放送局の連携企画です。ＮＨＫラジオ第１で毎週木曜日に放送される『ふくどん！』（休止の場合あり）のコーナー「どんどんめし」で紹介される予定です。