【まち食堂物語】三條屋・三春町 味の決め手、手間かけて

 
先代の味を守る(左から)2代目の義吉さん、3代目の亮吉さん、照子さん(吉田義広撮影)

 総菜屋から出発

 仕事一筋の2代目に優しく寄り添う女房、店を支える3代目。古き良き時代の食堂の姿がそこにはある。

 城下町三春の中心部、春は桜、夏は祭りで活気づく町の表通りに三條屋はのれんを出す。元々は鍛冶屋を営んでいた先代が、馬の競りなどで往来する仕事人のために軽食を売る総菜屋を出したのが店の始まりという。道路の拡幅と町の景観づくり条例に合わせて店を建て替え、今の姿になったがその歴史は古い。

 初代三條吉二さんは終戦後に三春町の実家に戻り、1948年ごろ妻シノさんと総菜屋を引き継いだ。そばや丼物など味を研究しながら出前を始め、今の食堂の礎を築いた。現在の店は、息子で2代目の義吉さん(77)が調理場の中心に立つ。ホールは義吉さんの妻照子さん(76)が担当、吉二さんの孫で3代目の亮吉さん(50)は調理をしながら出前の配達もこなす。

 五目あんかけラーメンやからしタンメンといった人気メニューは義吉さんが考案。「いろんなところに食べ歩きに出かけて自分の店のメニューや味を増やしていったんです」と寡黙な義吉さんに代わって、照子さんが教えてくれる。

 店は昼時になると、常連客から観光客、会社員、子ども連れなどでにぎわう。土、日曜日は店を手伝う従業員が加わることもあるが、基本は3人で店を切り盛りする。少ない人数で次々と注文をさばくのに、3人の息の合った仕事ぶりが光る。調理鍋を振るう義吉さんの威勢の良い声が響き、亮吉さんが手際よく数品の料理を仕上げ、照子さんがてきぱきと配膳する。

 店の売りは手作りへのこだわりだ。ラーメンのスープやソースカツ丼のソース、辛子(からし)みそにいたるまで味の決め手となるものを一から手作りする。スープは豚骨と鶏ガラにネギ、ニンニク、ショウガなど8種類の野菜を煮込み、辛子みそは鶏モモのひき肉にトウバンジャンや一味唐辛子などを加えて作る。朝の仕込みを任せられている亮吉さんは「全てはお客さんにおいしいと思ってもらいたいという父の考え方。大変で手間がかかってもそういう仕事の仕方を変えないんです」と笑いながら話す。

 形は変えられぬ

 創業から70年余り。吉二さんが亡くなった後、シノさんと義吉さん、照子さん、亮吉さんに加え、従業員数人を雇って大勢の客が通う店を支えた時代があった。両親の年齢を考慮し、亮吉さんはこれからも店を続けていくためには出前を控えたり、メニューを減らすことも必要だと考えている。

 ただ、「今の営業の形はなかなか変えられない」と亮吉さんは話す。それは義吉さんの料理に懸ける思いを知っているからだ。今はないカレーうどんや、もやしラーメンといった昔のメニューが食べたいという注文の声を聞くと、それに応えようと料理を出したり、調理時間を短縮するために計量器を使うよう勧めてみても、お玉で調味料を10回すくうやり方を変えようとしない2代目の姿がある。「仕事中毒なんですよね」と2代目の思いを支える3代目。これからもこの食堂の味と魅力は続いていく。(坂本龍之)

お店データ

230813syokudou3.jpg 城下町の食事どころとして愛される三條屋の店構え

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【住所】三春町大町79

【電話】0247・62・2370

【営業時間】
午前11時~午後2時
夜は要相談

【定休日】水曜日

【主なメニュー】
▽三春そば=1100円
▽天ザルそば・うどん=1200円
▽ソースカツ丼=800円
▽野菜炒め定食=850円
▽カツカレー=1100円
▽からしタンメン(塩・みそ)=750円
▽五目あんかけラーメン=800円
▽タンメン(塩・みそ)=700円
▽醤油ラーメン=650円
▽アメリカンラーメン=750円

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 たっぷりの野菜と特製辛子みそが自慢のからしタンメン

 名の由来分からず

 王道をゆく食堂に一風変わったメニューがある。それは「アメリカンラーメン」。30年以上前に義吉さんが考案したもので、その正体は塩タンメンにマヨネーズをたっぷり加え、コーンやバターを添えたもの。

 一度食べると、コクと酸味の絶妙なハーモニーにはまるファンは多い。店いわく、どんなラーメンか尋ねられることが多いが、アメリカンと名付けられた由来ははっきりと分からないそうだ。

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 NHKラジオ第1「ふくどん!」で毎週木曜に連携企画

 まち食堂物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『ふくどん!』(休止の場合あり)のコーナー「どんどんめし」で紹介される予定です。