【まち食堂物語】まるいち食堂・猪苗代町 父の一言が看板生んだ

渋々カツ丼追加
猪苗代町の中央商店街に古くからあるソースカツ丼の名店は、平日でも行列ができる人気店だ。テーブル席のみ全24席のこぢんまりとした店内ながら昭和の懐かしい雰囲気にあふれており、手書きの壁貼りメニューから注文するスタイルも趣がある。2代目店主の笠間義幸さん(60)は「開店当初は今よりもさらに小さな店で、メニューはラーメンとみそラーメンだけだった」と話す。
母キヨ子さん(79)が50年以上前に創業。祖母の名前「イチ」に丸を冠して「まるいち食堂」とした。最初はラーメン専門店だったが、しばらくたった頃、バスの運転手をしていた父親の一言が店の方向性を変えた。「会津若松市で食べたソースカツ丼がうまかったから、うちでも始めてみないか」。キヨ子さんは「そんなの面倒だから」と反対したが、渋々メニューに加えると評判になり、今では看板メニューになっている。
調理場を担当するのは妹の長田(おさだ)裕美さん(56)と小板橋英子さん(55)。まだまだ現役のキヨ子さんも元気に調理場に立つ。店主は調理場には入らず、ホールと出前を担当している。「まさか店を継ぐとは考えていなくて、ずっとサラリーマンをしていた」と義幸さん。転機は2010年ごろのキヨ子さんのけがだった。「母が両手を骨折し、年だから治りが遅い。もう店を閉めようかという話にもなったが、常連さんに申し訳ないと思い、私が会社を辞めて店を継ぐことにした」。親やきょうだいたちで店を切り盛りする点については「お互いに言いたいことを言い合えるのがいい」と笑う。
仕込みを丁寧に
ボリューム満点のソースカツ丼は、やわらかくて分厚い肉と薄くてしっとりした衣の絶妙なバランスが特徴だ。ソースは程よい甘辛さでしつこすぎないところが何度食べても飽きさせない。肉がやわらかい理由を義幸さんは「仕込みに時間をかけているから」と明かす。「肉に関しては先代の頃から筋の細かい部分まで切ったりたたいたりして、とにかく仕込みの作業に時間をかけていた。そういう丁寧さはこれからも心がけたい」
元々はラーメン店だけあって、こだわりの自家製手打ち麺によるラーメン類も根強い人気だ。製麺も担当する裕美さんは「湿度が関係するから、その日によって出来が全く変わる。製麺は今も難しい」と話す。製麺所に頼もうとしたこともあったが、つなぎを使わない難しい麺のため、どこも引き受けてくれなかったという。「スープとの絡みを考えると、この麺が一番だから変えたくない。大変だけど、そのぶん安く提供もできる」と裕美さん。しばらくはワンコインで食べられるラーメンだけは、今の500円から値段を変えないつもりだ。
強いこだわりを持ちながら店を続けられる原動力について義幸さんは「常連さんからの『いつもおいしいね』という言葉があるから」と話す。つい先日も30年ぶりに訪れたという来客者から「懐かしい味でおいしい」と言われたことが「最近一番のうれしい出来事」と目を細める。変わらぬ味を守るために、今日もきょうだいで丁寧な仕込みを続けている。(伊藤雅将)
猪苗代町の中央商店街に古くからあるソースカツ丼の人気店「まるいち食堂」
【住所】猪苗代町字町尻342
【電話】0242・62・3710
【営業時間】午前11時~午後5時半
【定休日】不定休
【主なメニュー】
▽ソースカツ丼=1000円
▽煮込みカツ丼=1100円
▽カツカレー=1100円
▽カレーライス=850円
▽牛丼=1000円
▽カツ定食=1100円
▽札幌味噌ラーメン=850円
▽からしラーメン=800円
▽味噌ラーメン=750円
▽塩ラーメン=750円
▽野菜ラーメン=750円
▽チャーシューメン=750円
▽ラーメン=500円
▽餃子=350円
やわらかくて分厚い肉と薄くてしっとりとした衣の絶妙なバランスが特徴のソースカツ丼とこだわりの自家製手打ち麺によるラーメン
アスリート支える
地元ゆかりのアスリートにもファンが多い。フリースタイルスキー・モーグル元日本代表の遠藤尚さん(猪苗代高卒)は帰省のたびに通い、好物の塩ラーメンを注文する。義幸さんは遠藤さんの後援会長も務めた。高校時代を猪苗代町で過ごしたバドミントンの桃田賢斗選手は著書の中で「ぼくは、あそこのソースかつ丼がいまでも世界一美味(おい)しいと思っている」(「自分を変える力」より)と記している。
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NHKラジオ第1「ふくどん!」で毎週木曜に連携企画
まち食堂物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『ふくどん!』(休止の場合あり)のコーナー「どんどんめし」で紹介される予定です。
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