【まち食堂物語】早女川食堂・鮫川村 義母からの味受け継ぐ

教わった通りに
母から受け継いだ味を後世に残したい―。鮫川村の中心部で半世紀以上続く「早女川食堂」は、多くの常連客が通う人気店。店を切り盛りする2代目の斎須信子さん(78)は「村の食材を使った料理をお客さまに食べてもらいたい」と心を込めて作ったメニューを提供している。
信子さんが「母」と口にするのは、店を開いた義母ミヨさん(98)のこと。「家を新築し、ローンを返すためにお店を開いたらしい」と信子さんはほほ笑む。開業した1967年当時、村の人口は現在の約2・5倍の8千人近くおり、村中に飲食店があって多くの客であふれた。
食堂を営む斎須家に嫁いだ信子さんは「店を継ぐのは必然だった」と、71年から店を任された。2010年までの約40年間は2人で店を切り盛りし「母はいつも笑顔だった。本当にお客さまを大事にしていて、働き者だった」とミヨさんを尊敬する。
店の人気メニューのカツ丼や鍋焼きうどん、正油(しょうゆ)ラーメンなど、多くのレシピを教わった。母から受け継いだ味をずっと提供したいと、レシピを変えることなく営業を続けてきた。久しぶりに店を訪れた客からは「昔と変わらない味」と声が上がった。「そう言ってもらえると、教わった通り作り続けることができていると実感できてほっとする」
店名は義父の寛さん(故人)が名付けた。仕事の合間に来店する客のために早く料理ができるようにと「早」、女性が店を切り盛りしていることから「女」の文字を取り、店がある鮫川村にちなんで「早女川食堂」になった。開店当初は「砂女川食堂」だったというが、古くから店を知る常連客は「『飲食店なのに砂という字を使うのはよくないんじゃないか』と、1年ぐらいで店名が変わったらしい」と語る。
家族や客に感謝
「実は、体の調子がずっと良くなかった」と、信子さんはつぶやく。30代の頃、ぜんそく発作を起こすようになり、約30年間病院通いの日々が続いた。「それでもお店を続けてこられたのは母や家族のおかげ。そして、料理を楽しみに来てくれるお客さまのおかげだ」と感謝する。ここ20年、発作は落ち着いてきた。「『よく頑張ったね』とよく声をかけてもらえる。その分、お返ししなくちゃと思う」と、仕事終わりにはボランティア活動にも力を入れている。「家でじっとしているより、元気が出る気がする」と照れ笑いする。
こうした信子さんの人柄もあり、畑で作った野菜などを店に持ち込んでくれる近所の人も多い。いただいた村産の新鮮な野菜を使った料理を客が喜んで食べてくれることが調理場に立つ原動力になっている。
「80歳まではお店を続けたい」という思いと同時に、「仕事を辞めることを目標にするのはさみしい」と、今後の店の経営についても考える信子さん。それでも「早女川食堂だからできることがあるはず。今はみんなに喜んでもらえるように頑張りたい」。時代は変わっても、変わらない味と、おもてなしが多くのファンを引き寄せる。食で村を元気にしたい思いは膨らむばかりだ。(伊藤大樹)
"母"から受け継いだカツ丼を調理する信子さん。利用客からは「昔と変わらない味」と評判だ
【住所】鮫川村赤坂中野字新宿65
【電話】0247・49・2123
【営業時間】午前11時~午後2時
【定休日】日曜日
【主なメニュー】
▽カツ丼=800円
▽ソースカツ丼=800円
▽親子丼=700円
▽カツカレー=800円
▽カレーライス=600円
▽オムライス=700円
▽チャーハン=600円
▽生姜焼き定食=800円
▽焼き肉定食=800円
▽ヒレカツ定食=1000円
▽ロースカツ定食=900円
▽野菜炒め定食=700円
▽正油ラーメン=500円
▽チャーシューメン=700円
▽味噌ラーメン=700円
▽タンメン=700円
▽味噌タンメン=700円
▽五目ラーメン=800円
▽鍋焼きうどん=800円
豚肉を卵でとじたボリューム満点のカツ丼(手前)と、地元の野菜などが入った鍋焼きうどん
村の文化人御用達
寛さんの父、初太郎さんは村内で最初の村誌を発刊した。寛さんも1944年ごろに村の文芸誌「奥の鮫川」を発刊。その伝統を守ろうと、現在は信子さんが奥の鮫川を発刊している。信子さんは「昔は村の文化人たちがよく店に来ていた」と振り返る。
このほか、信子さんは俳句や一閑張りなどの趣味を楽しむ。
中でも俳句は「考えていると心が休まり日常が退屈しなくなる」と語る。
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NHKラジオ第1「ふくどん!」で毎週木曜に連携企画
まち食堂物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『ふくどん!』(休止の場合あり)のコーナー「どんどんめし」で紹介される予定です。
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