【まち食堂物語】まがら食堂・桑折町 "母心"込めた味と盛り

実家のような店
JR桑折駅や桑折町役場からほど近い県道沿いに、常連客らが「ただいま!」と実家のように訪れる「まがら食堂」がたたずむ。昼の出前が主流だが、1952年の創業以来、70年以上も地域に温かい家庭の味を届け続けている。
昔ながらの"おかもち"を持ってバイクで配達に駆け回る2代目店主の真柄信幸さん(78)と仕込みや出前の注文を受けて切り盛りする「司令塔」の妻しげ子さん(77)、母の味を受け継いで腕を振るい、出前にも出かける「二刀流」の次女菅野美和子さん(51)の親子で店を回す。母娘で明るいジョークを飛ばし合い、信幸さんはその掛け合いを目を細めながら耳を傾け、時に参戦するのがいつもの光景だ。
信幸さんの父が脱サラして始めたアイスキャンディー屋が食堂の原点。「自転車で売り歩いて、よく売れていた」と信幸さんは亡き父の姿に思いをはせる。数年後、ラーメンを中心とした食堂になり、信幸さんも高校に入学すると出前を手伝うようになった。その後、近くの工場で当時の花形職業・タイプライターとして勤めていたしげ子さんと出会い、夫婦で店を継いだ。「昔は東北本線の終電ごろまで店を開けて『締めのラーメン』を食べに来る客でにぎわった。朝から晩まで目まぐるしく働いた」としげ子さんは振り返る。「なんで嫁いできてしまったんだろうねぇ」とちゃめっ気たっぷりに冗談を言うが、出前に出かける信幸さんを気遣い「気をつけてね」と声をかける。そんなおしどり夫婦の両親を見て育った美和子さんは「お客さんに宿題を教えてもらったり、遊んでもらったりした」と懐かしみ、専門学校に進んで調理師免許を取得。「店で働く毎日が本当に楽しい」と目を輝かせる。
人気の「焼肉定食」は、かつて店の近くにあった県警の寮に入る若手警察官に「おなかいっぱい食べてほしい」と、しげ子さんの"母心"から生まれた一品だ。その後、オムライスやカツ丼、カレーなど豪快な盛りのメニューが次々と増えていった。そんな"真柄家の味"をまとめたレシピノートは存在せず「見て覚えるのが基本」と美和子さんはあっけらかんと笑う。その縁は今も受け継がれ、当直の署員に出前を届けている。「転勤したり、定年を迎えても顔を出してくれるのがうれしいね」と3人は顔を見合わせる。
義理人情も名物
店のもう一つの"名物"といえば、しげ子さんが毎朝、近くの醸芳小に登校する児童を見守る姿だ。日課として続けて半世紀。新型コロナウイルス禍前までは、店前を通る児童とハイタッチをしていたことが由来で「タッチのおばちゃん」とあだ名が付いた。「おはよう、行ってらっしゃい」と優しく声をかけるところから一日が始まる。
東日本大震災の時は店が被災しながらも、炊き出しをして警察署や消防署、近所の高齢者と仮設住宅に温かい食事を届けた。「困っている人がいたら助けたいから」。分け隔てなく接する義理人情の厚さが人の心を引きつけ長年店が愛される理由なのだろう。
「元気なうちは続けていきたいね」とつぶやく信幸さん。町の移ろいは変わっても、店の味と温かさは変わらずそこにある。(高橋由佳)
自慢の焼肉定食を盛りつけする美和子さん(手前)。信幸さんは近くで調理を見守る
【住所】
桑折町南半田六角41
【電話】
024・582・2078
【営業時間】
午前11時15分~午後1時
【定休日】
日曜日
【主なメニュー】
▽ラーメン=600円
▽みそラーメン=700円
▽激辛わかめラーメン=700円
▽五目ラーメン=700円
▽月見うどん=650円
▽ざるうどん=700円
▽焼きうどん=700円
▽肉そば=650円
▽ざるそば=700円
▽野菜炒め定食=1000円
▽焼肉定食=1100円
▽カレーライス=700円
▽オムライス=800円
▽カツ丼=800円
▽あばれる君セット=1000円
しげ子さんの"母心"から生まれた焼肉定食(手前)。お笑い芸人あばれる君が来店したことで誕生した、ラーメンとミニソースカツ丼の「あばれる君セット」(奥)も人気
自筆の「日常五心」
国や町、警察からの感謝状や表彰状が壁にずらりと並ぶ店内。その中に交じって掲げられているのが"日常五心"の格言。「有難う」と言う感謝の心、「すみません」と言う反省の心、「おかげ様」と言う謙虚な心、「私がします」と言う奉仕の心、「はい」と言う素直な心―。「何かで見かけて、いいなと思って適当に書いたのよ」と笑うしげ子さん。その達筆な筆遣いから、人や地域に対する愛情の深さがうかがえる。
◇
NHKラジオ第1「ふくどん!」で毎週木曜に連携企画
まち食堂物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『ふくどん!』(休止の場合あり)のコーナー「どんどんめし」で紹介される予定です。
- 【まち食堂物語】ドライブイン幸華・郡山市 笑顔咲くおなじみの味
- 【まち食堂物語】めざせ!!そばや・いわき市 試行錯誤、海鮮丼への道
- 【まち食堂物語】食堂トミーとマツ・会津若松市 挑戦続けメニュー進化
- 【まち食堂物語】あすなろ食堂・白河市 心も満たす大盛り定食
- 【まち食堂物語】お食事処おかもと・いわき市 手間暇惜しまず丁寧に
- 【まち食堂物語】一二三食堂・本宮市 万人に愛される味付け
- 【まち食堂物語】まがら食堂・桑折町 "母心"込めた味と盛り
- 【まち食堂物語】ままや食堂・喜多方市 わがままな注文お任せ
- 【まち食堂物語】だいまる・川俣町 胃袋つかみ続けて50年
- 【まち食堂物語】早女川食堂・鮫川村 義母からの味受け継ぐ