「大熊に活力」新工場 若手経営者ら起業、縫製や金属加工製品

 
新たな製造拠点での事業について説明する半谷さん(左)と岩本さん(右)

 縫製や金属加工の製品を手がける製造工場「F'S Factory(エフズファクトリー)」の竣工(しゅんこう)式が13日、大熊町下野上の現地で行われた。「大熊に地元企業のものづくりを復活させよう」。同社は東京電力福島第1原発事故で避難を余儀なくされ、いわき市で再起を果たした3人の若手経営者が設立した。地元企業が力を合わせて立ち上がり、地域の経済再生をけん引することを目指している。

 設立に関わったのは、富岡町出身でエネルギープラントの電気・計装メンテナンス会社「東北エンタープライズ」代表の名嘉陽一郎さん(47)と、大熊町出身で半導体製造会社「アイシーエレクトロニクス」代表の岩本哲児さん(48)、浪江町出身でアウトドア用品などの製造販売を手がける「キャニオンワークス」代表の半谷正彦さん(44)。それぞれが苦労を重ねていわき市で事業再開したが、震災10年を前に「自分たちが古里にできることはないか」と考えるようになった。

 「それぞれの強みを生かしたものづくりの会社をつくることが、地域への貢献になる」と意見がまとまり、2021年3月11日に会社を設立した。下野上地区の旧アイシーエレクトロニクス社の敷地に、床面積約2200平方メートルの工場兼社屋が完成したのは今年7月。双葉郡に帰還した人や地域の魅力に引かれて定住してきた人を雇用し、操業開始に至った。

 竣工式では、新会社の社長を務める名嘉さんが「生まれたての会社だが、汗をかいて地域の明るい未来に貢献したい」とあいさつした。東北エンタープライズのネットワークと知識を活用し、キャニオンワークスの技術を用いた作業用保護具や縫製品、アイシーエレクトロニクス社の経験を注入した半導体製造工場で使う金属部品などを供給する。第1原発の廃炉の現場への導入も視野に入れる。

 取締役の岩本さんは「大熊で製造業ができるということを伝えたい。小さい工場かもしれないが雇用も増やしていく」と語る。社名には、復興への思いを込め双葉、福島、幸運、未来の英語の頭文字である「F」を冠した。副社長の半谷さんは「自分たちの取り組みを見て『やってみたい』と思う人が出てくれば大熊だけではなく、双葉全体が盛り上がると思う」と笑顔を見せた。