福島県復興の階段「着実」 特定帰還居住区域、除染本格化見通し

 

 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から3月11日で丸13年となる。原発事故による帰還困難区域のうち、6町村が計画した特定復興再生拠点区域(復興拠点)では避難指示が全て解除され、再生への動きが活発化。今年は、復興拠点から外れた地域で除染やインフラ整備を加速させられるかに焦点が移る。浪江町に開設した福島国際研究教育機構(エフレイ)の活動は2年目に入り、本県復興は次のステージへと進む。

 東京電力福島第1原発事故による帰還困難区域の再生を巡り、政府は2024年度から、避難指示解除の対象となる「特定帰還居住区域」の除染を本格化させる見通しで、予算案に事業費450億円を計上した。

 同区域の新設を盛り込んだ改正福島復興再生特別措置法が昨年6月に施行された。改正法によると、特定復興再生拠点区域(復興拠点)から外れた地域に帰還を希望する住民の宅地と周辺道路、集会所、墓地など日常生活に必要な範囲を特定帰還居住区域に指定し、国費で除染する。

 帰還困難区域を抱える南相馬、富岡、大熊、双葉、浪江、葛尾、飯舘の7市町村が住民の意向を踏まえて区域の範囲を定めた復興再生計画を作成。県の同意を得た上で、政府が認定する仕組みだ。

 計画を巡っては、7市町村のうち、富岡、浪江、大熊、双葉の4町が本年度中の完成を目指している。モデルとして大熊、双葉両町では既に、計画の認定を受けた特定帰還居住区域の一部で昨年12月20日に先行除染が始まった。政府は24年度から、富岡、浪江両町と大熊、双葉両町の先行除染範囲以外の地域で除染を進展させる方針だ。

 2地区の再生計画、1月にも国に提出

 【富岡町】帰還困難区域の小良ケ浜、深谷の両地区に特定帰還居住区域を設定する復興再生計画について町議会や県の同意を得た上で、今月にも国に提出する。両地区の面積は計約460ヘクタールで、除染面積は約220ヘクタールに上る見込み。

 計画案には両地区の除染範囲に多くの住宅が含まれた。国の認定を経て、4月に除染が始まる見通し。帰還意向のある住民の生活圏を幅広く捉え、宅地周辺を面的に除染する。近くに帰還意向のない住民の宅地があっても一緒に除染する。

 両地区では昨年11月末に幹線道路や墓地など、ごく一部に限り避難指示が解除された。両地区の住民登録は219世帯523人(昨年11月現在)。住民意向調査(同8月末現在)に回答した182世帯のうち、88世帯が「帰還希望あり」、46世帯が「帰還希望なし」、48世帯が「保留」とした。

 早ければ3年後の避難指示解除目標

 【大熊町】下野上1区の特定帰還居住区域で昨年12月20日、除染と家屋などの解体工事が始まった。対象範囲は、下野上1区のうち金谷平、北向の両地区の一部で、面積は計約60ヘクタール。町は早ければ3年後の避難指示解除を目指している。

 町内の復興拠点は2022年6月に避難指示が解除された。

 しかし、下野上1区はJR大野駅周辺が復興拠点となったものの、復興拠点から外れた地域もあり、行政区が分断されていた。

 町は24年度から除染に着手する特定帰還居住区域を9行政区に設ける方針で、3月までに復興再生計画を策定したい考えだ。

 区域の対象は野上1区、野上2区、夫沢2区、夫沢3区、町区、熊川区、熊1区、熊2区、熊3区で、九つの行政区に及ぶ見通し。先行モデルとして計画が決まった下野上1区、中間貯蔵施設の建設地を除いた行政区が含まれている。

 除染や家屋の解体、2行政区で始まる

 【双葉町】下長塚行政区と三字行政区の特定帰還居住区域で昨年12月20日、除染と家屋などの解体工事が始まった。対象範囲は下長塚行政区のうち長塚地区の一部、三字行政区のうち目迫、水沢、前田各地区の一部で、面積は計約50ヘクタール。町は5年以内の避難指示解除を目標にしている。

 両行政区を巡っては、避難指示が2022年8月に解除されたJR双葉駅周辺の復興拠点に含まれた地域と、含まれなかった地域があった。行政区ごとに分断が生じたため、町は先行モデルの区域に設定した。

 ただ、国が先行除染をモデル事業と位置付けた影響で予算が限られ、両行政区と同じく復興拠点の内外で分断された羽鳥行政区は区域から外れる形になった。

 町は、24年度から除染を始める特定帰還居住区域について、3月をめどに復興再生計画案を取りまとめる考えだ。

 宅地が残る12地区、再生計画まとめる

 【浪江町】帰還困難区域に宅地が残る全12地区に特定帰還居住区域を設ける方針で、昨年12月15日に復興再生計画案をまとめた。計画は今月に策定される予定。2024年度に除染が始まる見通しで、町の面積の8割を占める帰還困難区域の再生が新たに進む。

 区域が設定されるのは井手、小丸、大堀、酒井、室原、羽附、津島、下津島、南津島、赤宇木、川房、昼曽根の計12地区の一部で、面積は計約710ヘクタール。帰還を望む256世帯の宅地を中心とした生活圏を範囲にした。避難指示が昨年3月に解除された復興拠点や周辺市町村と行き来するための道路、インフラ整備に必要な施設なども含めた。

 町は24年度以降も帰還意向調査を続け、区域を拡大する方針だ。吉田栄光町長は「計画案には対象となる全ての町民の意向を反映させた。浪江の復興を確実に前へ進めていく」と述べた。

 南相馬市や葛尾村、飯舘村は対応検討

 南相馬市、葛尾村、飯舘村は特定帰還居住区域を巡り、国と協議するなどして対応を検討している。

 葛尾村は北東部の野行(のゆき)地区に帰還困難区域が残り、このうち小出谷地区に数世帯の家屋がある。村は住民への1回目の意向調査などを実施した。

 エフレイ、研究者の顔ぶれ徐々に

 福島国際研究教育機構(エフレイ)は、本施設が整備されるまでの間、研究開発を委託で進める。農林水産やロボットなど五つの重点分野を設定し、初年度は16事業計27テーマを公募した。県内外の大学や研究機関などから応募があり、これまでに5テーマで委託契約を結んだ。研究者の顔ぶれが徐々に見える段階に入っている。

 研究テーマは多彩だ。福島大などは自然由来の有機物を活用し、生産の安定化や環境への配慮を実現する次世代型農業の研究に着手した。

 このほか、2024年は水素の利便性を高めて社会への導入を加速させる研究や、がん治療に放射線を役立てる新たな技術開発なども動き出す見通し。

 政府はエフレイを巡り、24年度予算案で23年度より9億円多い155億円を確保。施設整備の本格化を見越し、関連予算36億円は23年度の3億円から大幅増となった。敷地を四つの区画に分け、研究・実験施設のほか、訪問者の短期滞在や住民らとの交流の場も設ける方向で調整が進む。

 エフレイが掲げる「創造的復興の中核拠点」の設置効果を波及させるべく、県や市町村は広域連携に強い意欲を示す。エフレイが立地する浪江町は、まちづくりの指針となる「国際研究学園都市構想」を3月に策定する方針で、他の市町村も企業との橋渡しなどで幅広い協力を模索している。

 課題は依然として低い知名度だ。エフレイは情報発信の強化をにらみ、フェイスブックとX(旧ツイッター)の運用を始めた。公式ロゴマークも近く決定する見込みで、柔らかなイメージづくりに腐心する。

エフレイ各機能の配置イメージ

 政府予算、26年度以降の財源未定

 2024年度政府予算案を巡り、本県復興に直結する復興庁所管分は4707億円が計上された。復興庁は「復興事業に必要な予算を確保した」と強調するが、25年度までの第2期復興・創生期間後の復興財源の枠組みは未定で、被災地からは「早急に財源確保に向けた議論を始めるべきだ」との指摘が上がる。

 政府は現行の復興財源の枠組みで、11~25年度の15年間に総額32兆9000億円の確保を見込む。そこから24年度末までの復興関連予算の執行見込み額を差し引くと、残りは3千億円程度となる見通し。

 単純計算では25年度に使える予算は3000億円程度に限られる。24年度以降は帰還困難区域に設けられる特定帰還居住区域の除染が本格化する見通しで、避難指示解除に向けた生活環境の整備などで追加財源の確保が必要となることも想定される。

 土屋品子復興相は26年度以降の復興財源に関し「フレーム(枠組み)の見直しも考えられる」と言及。一方、見直しの議論について「25年度の復興の状況を踏まえて必要な検討を行う」との見解を示している。

 特定帰還居住区域の整備やエフレイ関連が柱となる。東京電力福島第1原発で発生する処理水の海洋放出を巡っては、風評対策と漁業者支援を柱とした「産業・なりわいの再生」の分野に計331億円を配分した。

2024年度政府予算案の本件復興関係の主な予算

 処理水、3回放出...異常は確認されず

 東京電力福島第1原発で発生する処理水の海洋放出が昨年8月24日に始まって以降、これまで3回の放出を終えたが、国や県、東電などによる周辺海域のモニタリング(監視)で異常は確認されていない。東電は2月下旬にも、本年度最後となる4回目の放出に着手する方針だ。

 漁業者をはじめ、幅広い業種の関係者が懸念していた新たな風評被害は、県内では表面化していないのが現状だ。全ての放出完了を2051年と見込む中、東電が今後も風評につながるようなトラブルを起こさずに放出関連の運用を続けられるかどうかが問われる。

 国や県、東電などによるモニタリングで海水や魚介類に含まれる放射性物質トリチウム濃度は検出限界値未満がほとんど。海水から検出されたケースも基準値を大幅に下回っており、安全性は確保されている。

 東電は本年度、約3万1200トンを4回に分けて海に流す計画で、これまでに計2万3351トンを放出した。4回目の放出量は従来と同じ約7800トンで、17日間ほどかけて流される。

 処理水の海洋放出を巡る懸案として新年に持ち越したのが、中国による日本産水産物の輸入禁止措置だ。

 県外では中国の禁輸措置によりホタテやナマコなどの販売先が見つからず、これらの魚介類を扱う業種で損害が深刻化。本県にも行政機関や民間企業に中国からとみられる迷惑電話が相次ぎ、業務に支障が出た。

 禁輸の背景には日中間の政治的駆け引きがある。上川陽子外相は、昨年12月に本県を訪れた際に「科学的根拠に基づいて即時撤廃を(中国に)求める」と強調した。

 ただ、中国が態度を軟化させ、事態を打開できるめどは立っていない。日本政府が今年、どのようにして解決の糸口をつかんでいくかが注目される。