野ざらしの小さな本屋、大熊に開業 「今を肯定できる場所に」

 
来店者と会話する武内さん(右)。「読書をする機会を増やす場所にしたい」と話す

 大熊町に小さな本屋が開業した。名前は「読書屋 息つぎ」。営業は午後6時から3時間のみ。屋根はなく、野ざらしで並べられた本が数個の照明で照らされており、一風変わったスタイルを取る。会社員として働きながら、古里で準備を進めてきた店主の武内優さん(25)は「今の大熊町を、ありのまま肯定できる場所にしていきたい」と思いを込める。

 「プレゼントにちょうどいい本が欲しい」「妻と読むのにぴったりな本を探している」―。寒空の下、訪れた人らは武内さんと相談しながら、気に入った本を購入していく。敷地内には木の廃材で組み立てたテーブルに絵本や小説、エッセーなどの本が100冊ほど並べられ、それをビニールハウスの骨組みだけが囲む。屋根がないため、雨や雪が降れば店じまい。寒ければたき火で暖を取る。客が一人も来ないこともある。

 祖母の家があった大熊町の空き地を活用してオープンしたのは昨年12月。「本屋」ではなく「読書屋」と名付けたのは、本を売るだけでなく、この場所を通じて読書を始めたり、本を読む機会が増えたりしてもらいたいと思ったためだ。

 開店準備が始まったのは昨年5月ごろ。県外で高校生のキャリア支援などを行う会社を退職。父の住む富岡町に移住し、板金加工の会社に就職してからだ。「本屋の店主」という憧れを思い出し、仕事の傍ら準備を進めてきた。武内さんは「リラックスのために読む人もいれば、勉強や学びのために読む人もいる。そのどちらにも開かれた場所にしたい」と語る。

 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故で多くの住民が避難した大熊町。小学6年生だった武内さんも福島市に避難し、高校生まで過ごした。古里は長く離れていた場所だったが、武内さんは「何となく安心感がある場所」と話す。

 ただ、武内さんは復興を名目に町内の姿が急速に変わっていくことに違和感も抱いており「町の人たちの生活はありのままでいいのではないか」と思う。読書を通じた交流ができる本屋にしていくつもりだ。武内さんは本屋で客を待ちながら、温かく故郷の今を見守っていく。(津村謡)

 営業日や詳細は「読書屋 息つぎ」のインスタグラムから。

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