女性リーダー阻む「偏見」 少ない事例...想像できず、福島で座談会

 
公開座談会で「リーダー」をテーマに意見を交わす(左2人目から)石山さん、大隅さん、三部さん、坂本さん=3日午前、福島市

 国際女性デー(3月8日)にちなんだ公開座談会「あすを動かす力」は3日、福島市で開かれ、経済界や大学、スポーツ分野の男女4人が「リーダー」をテーマに意見を交わした。女性リーダーの育成を阻む理由として、手本になるロールモデルの少なさや、リーダー像に対するアンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み、偏見)を挙げた。

 福島民友新聞社、読売新聞東北統括本部、福島中央テレビの主催。国際女性会議「WAW!(ワウ)2022」有識者会合委員でクリフ(福島市)社長の石山純恵さん、女性研究者の育成に力を入れる東北大副学長の大隅典子さん、起業支援や人材育成に取り組むグロウイングクラウド(郡山市)代表理事の三部香奈さん、ラグビーの本県女子チームを指導している県ラグビーフットボール協会理事・女子委員長の坂本幸司さんが登壇した。

 石山さんは企業のリーダー育成に当たり女性が昇進をちゅうちょして断るケースもあるとして「ロールモデルがなさ過ぎて(リーダー像を)想像できない。バランスの取れた働き方で活躍している女性の数を増やすことがまず大事だ」と指摘。「それを阻む一番の理由はアンコンシャス・バイアスだ」と述べた。「旗を振って前を歩くリーダー像を目指してきたが、(社会が)この5~6年で様変わりした」として自身が理想とするリーダー像を「一緒に考え、行動を促す人」とも語った。

 大隅さんは「女性がリーダーに向いていないとか、(男性と)同じだけ働けないだろうとか、そもそも目指す女性がいないのではないかという無意識のバイアスにかかってしまっている。いろいろなリーダー像があってしかるべきだ」と多様性の重要性を強調した。

 偏見解消へ「行動を」

 福島市で3日に開かれた国際女性デー公開座談会「あすを動かす力」。クリフ社長の石山純恵さん、東北大副学長の大隅典子さん、グロウイングクラウド代表理事の三部香奈さん、県ラグビーフットボール協会理事・女子委員長の坂本幸司さんの4人による座談会では、アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み、偏見)がキーワードになった。

 本県は特に若年層の女性の転出超過が顕著で、人口減をとどめる上で大きな課題になっている。石山さんはこの背景に、首都圏などと比べて根深いアンコンシャス・バイアスがあるとし、それを変えるには「我慢して言いたいことを言わないのではなく、一人一人が勇気を持って声を上げ、行動していくことが大事だ」と訴えた。世界に目を向ければ「女性が活躍している企業は業績も、社会的地位という意味でも伸びている」と説明。対して日本では「アンコンシャス・バイアスを整理せず女性にばかり『女性活躍』をかぶせてしまったおかげで周りの意識醸成が進んでいない」と指摘した。

 起業を志す女性を支援している三部さんは、人によって求める起業の形はさまざまある中「『起業=稼ぐ』という常識の中で助言され、なかなか理解してもらえないという相談がある」と紹介。大隅さんは「多くの場合、男性やマジョリティー(多数派)の人は既得権を既に持っているということに気付いていないことがある。(アンコンシャス・バイアスは)できる人が無意識に考えてしまいがちな考え方だ」と提起した。

 石山純恵さん、活躍の推進へまずは数

 女性活躍を阻む一番の理由はアンコンシャス・バイアスだ。変えるには一人一人が我慢せずもっと声を上げ行動することが大事で、それが少しずつ進んできている首都圏との温度差が開き、若者が流出している。

 女性が活躍している企業は業績も社会的地位という意味でも伸びている。アンコンシャス・バイアスを整理せず、女性にばかり「女性活躍」をかぶせるのでは、意識の醸成は進まない。

 女性活躍でまず大事なのは数。(組織などの女性の割合は)少なくとも3割必要だ。女性がちゅうちょして昇進を断ることも実際にはあるが、それはロールモデルがなさ過ぎて(リーダー像を)想像できないから。バランスの取れた働き方で活躍する女性を増やすことが大事だ。数を増やすにはげたを履かせてもいいと思っている。そうしないと先に進まない。経済界からやっていかなければならない。

 大隅典子さん、多様なロールモデルを

 東北大は1907年に創立し、13年に日本で初めて女子学生を受け入れた。ただ、理系が非常に強い特性があったため、女性の人数は低迷していた。

 2000年代に入って男女共同参画推進のための東北大学宣言を発して共同参画の活動を始めた。ワーク・ライフ・バランスを支援するために、学内保育園の整備や女性研究者への研究費支援などを進めてきた。現在は無意識のバイアスを払拭することをテーマに、男性の育児参画をターゲットにしている。

 女性はリーダーに向いていないなどという考え方は無意識のバイアスを持っている状態だ。ロールモデルが少なく、目にする機会が少ないことが無意識のバイアスにつながっていると考えている。リーダー像もいろいろあって良い。全体から選んだ方が良いリーダーが生まれるので、多様なロールモデルが必要だと言える。

 三部香奈さん、起業の形は人それぞれ

 女性の起業家は年々増えていると感じるが日本政策金融公庫の新規開業実態調査によると開業者に占める女性の割合は20~25%ほど。もっと女性が起業してもいいのではないかと思う。

 女性起業家の特徴として育児や介護など自身の経験や、既存の制度や環境の中で理不尽さや疑問を感じ変えたいという思いを持って行動を起こしている人が多いと感じる。若者だけでなく子育てが一段落して行動を起こす人も、退職を機に別の新しい働き方をしようとする人も、起業を志す人の年齢は幅広い。

 一般に「起業=稼ぐ」というイメージが強いが、そうではない人もたくさんいる。そういう人が既存の相談機関などで、その常識の中で助言され、なかなか理解してもらえない、という相談も寄せられる。肩書きにかかわらず社会でもっと気軽に意見やアイデアを出し合える仕組みをつくっていきたい。

 坂本幸司さん、ラグビー競技を知って

 日本のラグビー選手9万1千人のうち女性は約5千人。男性の割合に対して女性のプレーヤーは5%にとどまっている。高校生は男子選手2万人に対して女子選手は800人だ。

 磐城高ラグビー部で監督をしていた時に女子でプレーしたいという生徒がいた。(生徒と向き合う中で)女子の方がラグビーに向いていると思うこともたくさんあった。「女子は厳しいか」という無意識のバイアスは誤っていたと認識できた。娘が「ラグビーをしたい」と言った時、その子の親がどんな反応をするかは目に見える。それを取っ払わないと人は増えないし、強くならないし、競技の素晴らしさを味わってもらえない。

 女性選手へフィジカル面で配慮は必要だが、段階的にやっていけば十分戦える。ラグビーはリーダーや人の育成にプラスになると信じている。多くの人に女子ラグビーを知ってほしい。