【 会津若松市・芦ノ牧温泉(中) 】 大浴場の開放感は『渓流の美』

 
渓流の流れをイメージした開放感のある「渓流展望大浴場」

 晩夏に吹く涼しい風が、すぐそこまで迫る秋の気配を感じさせてくれる。少し肌寒くなってきたこの時期、足が向くのはやはり温泉だ。切り立つ渓谷がつくり出す会津の奥座敷にたたずむ芦ノ牧温泉の老舗旅館「丸峰」は、時代の変遷とともに極上の癒やしを提供し続けてきた。星啓子常務(65)の案内で、多くの観光客を魅了してやまない老舗旅館が誇る湯場へと歩を進めた。

 豊富な湯量を誇る芦ノ牧温泉。旅館の近くから引いているという源泉の泉質は含塩類石膏(せっこう)泉で、水素イオン指数(pH)は7.6。源泉の温度は60度とかなり高めだが、夏は少しぬるめに、冬は少し熱めに調節している。

 全長30メートル―。「渓流展望大浴場」に足を踏み入れるやいなや、湯船の大きさに驚かされた。川の流れをイメージしたという湯船の形は、温泉街沿いの渓流を彷彿(ほうふつ)とさせる。開放感あふれる湯船につかり、湯口から流れる源泉の音に耳をすますと感じるのは、まさに川のせせらぎそのもの。趣向を凝らした癒やしの空間が、せわしない日常を忘れさせてくれた。

 「古代檜(ひのき)の湯」も忘れてはならない自慢の湯だ。文字通り、年代物のヒノキで造られた浴槽は、木のぬくもりと香りが全身を柔らかく包んでくれる。

 ◆時代を捉え改革

 観光客のニーズや時代の流れを常に捉え、改革を進めてきた丸峰。創業は1969(昭和44)年6月で、今年、50周年の大きな節目を迎えた。現在は「本館」「別館 川音」「離れ山翠」の3館体制で、家族やカップル、少人数など、さまざまな客層を受け入れている。個人客への対応を強化するため、露天風呂付きの客室を24部屋整備した。冬季限定で、おちょこをのせた桶(おけ)を湯船に浮かべて会津の酒を味わうのもまた一興だ。

 なかでも、豪華なたたずまいが特徴の「離れ山翠」。客室はわずか6室で、お茶のお香がほのかに香る独立した玄関を上がると、広々とした客室が広がり、宿泊者だけに許された非日常の空間を堪能できる。各部屋からの景色もさることながら、客室や館内の随所に整備された大小の枯山水庭園にも目を奪われる。「豪華さと安らぎを提供しているんです」と星常務。その言葉に納得させられた。

 丸峰を語るには「黒糖まんじゅう」は欠かせない。今年2月に亡くなった星弘子会長が考案し、いまや丸峰の代名詞。製造・販売を手掛ける関連会社「菓匠 丸峰庵」は旅館近くに店舗を構える。厳選された小豆を使った甘さ控えめのこしあんが特徴で、風呂上がりにも、お土産にもぴったりの商品だ。

 「よろこばれることに喜びを感じる」。旅館の"顔"とも言えるフロントの背に掲げられた額にある一節だ。筆文字は星会長の直筆で、丸峰のおもてなしの理念として従業員に脈々と受け継がれている。時代を経ても、老舗の湯屋を、真心を込めて守る従業員の姿は変わらない。

 【メモ】丸峰=会津若松市大戸町芦ノ牧字下タ平1128。日帰り入浴は行っていない。

会津若松市・芦ノ牧温泉

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 【人気の食堂...原点は「牛乳屋」】会津若松市の会津鉄道芦ノ牧温泉駅近くに店を構える、創業90年余の歴史を誇る老舗「牛乳屋食堂」では、昔ながらの味を提供している。「牛乳屋」の名前の由来は、鉄道ができたばかりの大正時代にさかのぼる。駅前で牛乳屋を始めたのが同店の始まり。「牛乳屋ミニセット」(税込み1050円)は、ミニカツ丼と半ラーメンを味わえるセットで、瓶の牛乳も楽しめる。人気ナンバーワンを誇る「ミルクみそラーメン」(同850円)や「手作り餃子(ギョーザ)」(同450円)も自慢の一品だ。営業時間は午前11時~午後3時、午後5時~同8時。定休日は水曜日、第2、4火曜日の夜の部。

会津若松市・芦ノ牧温泉

〔写真〕食べ応えのある「牛乳屋ミニセット」