【赤飯「おふかし」と呼ぶ?】冠婚葬祭 特別に「ふかす」

 
せいろで蒸し上げて作る大量の「おふかし」=福島市の松月堂

 「おふかし」とは県内で広く使われる、赤飯を意味する方言だ。しかし「ふかす」という言葉は漢字で「蒸す」と書き、方言ではない。そもそも、芋だって肉まんだってふかすものなのに、なぜ赤飯だけを県内では「おふかし」と呼ぶのだろう。

 読者から寄せられたメールやお便りでは「おふかし」という呼称は県内各地に浸透していて、地域差はほとんど見られなかった。ただ、県南の一部地域では「こわめし」という呼び方も混在していた。

 方言を研究する福島大教授の半沢康さんに聞くと、共通語にもある言葉だけれど意味がずれているパターンなのではないかという。例えば「ごみを捨てる」という意味の方言「ごみを投げる」。「投げる」という共通語はあるけれど、捨てるという意味は共通語には含まれない。同様に「ふかすという言葉は共通語にもあるけれど、共通語には赤飯の意味はない」(半沢教授)ということのようだ。

仏事は白ぶかし

 また、お祝い事の赤飯とは反対に、仏事では「白ぶかし」を炊く風習についても多くの情報が寄せられた。

 白ぶかしとは、ササゲなどの白い豆で、もしくは小豆を使うけれど煮汁を入れず色が付かないようにして炊いた「白いおふかし」だ。いただいた情報からいくつか紹介したい。

 郡山市の生天目さん(70)「昔から郡山市の葬儀には白ぶかしが欠かせません。自宅葬も多かったので白ぶかし、天ぷら、煮物や漬物などたくさん作りました」

 伊達市の菅野さん(38)「白ぶかしは、火葬中におにぎりにしたものを食べるか、パック詰めにしたものを持ち帰ってもらう」

 福島市のふーちゃんさん(64)「昔は葬式には親戚が行器(ほかい)に入れて持って行ったが、今は葬儀社に頼みます」

 伊達市の佐藤さん「白ぶかしは不祝儀に行器に入れて仏壇に上げた」

「行器」に入れて

 主に県北の読者から、行器という聞き慣れない言葉が出てきた。県北地区の葬儀社に問い合わせてみると「行器とは、取っ手とふたが付いた朱塗りの入れ物。昔は行器に白ぶかしを入れ、おにぎりにして火葬場などに持って行く風習があった」と教えてくれた。だが同社では、ここ数年は行器を見掛けないという。

 本県特有のものなのだろうか。「ほかい」を辞書で引いてみた。

 【外居・行器】食物を運ぶのに用いる木製の容器。平安時代以来用いられ、多くは曲物(まげもの)で円形、外側に脚がつく。墨漆塗、杉の白木製などがある。(広辞苑第7版)

 なんと、平安時代から伝わる歴史あるものだった。前出の葬儀社は「行器は本来、赤飯を入れてお祝い事で使うものだが、その風習が仏事でも執り行われているのでは」と推察する。古くから本県の冠婚葬祭において、おふかしは特別な存在だったことがうかがえる。こうなると、赤飯をふかして作るものの代表扱いすることもうなずける。

 福島県民にとっておふかしは、昔から特別な器に入れて大切に扱うものであり、今はコンビニでも赤飯おにぎりが買える身近な存在でもある。そんな、県民とおふかしの密接な関係が見えた(気がする)。(佐藤香)