【まち食堂物語】うお政・泉崎村 鮮度に自信、魚店の定食

 
2代目社長の政章さん、登喜子さん夫妻(前列)と長男政敏さん、まゆみさん夫妻。優しい笑顔で自慢の魚定食を提供する(石井裕貴撮影)

 営業は昼2時間

 営業は昼のわずか2時間。それでも新鮮な魚定食を求め、老若男女が続々と訪れる。中に入ると、壁に貼られたメニューに目が留まる。「何にするか」と迷っている客には、カウンター越しに座る2代目社長の佐藤政章さん(83)がお薦めの定食を教えてくれる。

 泉崎村の中心部から少し離れた場所にある「うお政」。魚店を兼ね、仕出しの調理や配達の合間に食堂を開いているため、営業時間が短い。魚店だからこそ、政章さんは「おいしい魚が手に入る」と胸を張る。毎朝市場で「常磐もの」や国内各地の鮮魚を仕入れている。

 創業は終戦直後の1945年頃。「佐藤魚店」の店名で先代の父正夫さんが魚を売っていたのが始まり。旧満州鉄道職員だった正夫さん一家は中国から引き揚げ、母の実家がある同村に住んだ。戦後の動乱を生き抜くため、まだ幼かった政章さんは父の仕事を手伝った。夜中の電車を乗り継ぎ、いわき市の闇市で魚を仕入れた。政章さんは「あの頃は何でも売れた」と振り返る。

 冠婚葬祭など地域の集まりがあれば、刺し身の盛り合わせやお膳など仕出しを配達していた。やがて家業を継いだ政章さんは、昭和後期にJR泉崎駅前に宴会場を構えるなど事業を拡大し「当時は怖いものなしだった」と笑う。

 89年、現在の店舗が立つ場所に店を移転した。長男政敏さん(58)と自分の名前の一部を使いたいとの思いから、店名を「うお政」に変えた。

 旅先でひらめき

 平成に入ると、大型スーパーの出店ラッシュで個人商店は苦境に立たされた。うお政も例外ではなく、売り上げが下がり危機感が募った。そんな中、政章さんは妻登喜子さん(82)と茨城県を旅行し、神社を訪れた。参拝中、隣にいた団体客が「なんだか魚料理が食べたいな」と独り言をつぶやいた。その時、政章さんはひらめいた。「そうだ食堂を開こう」

 思い立ったら即行動。1週間で店の一部を改修し、96年春に食堂を開いた。県南地域では魚料理をメインにした食堂は珍しかった。「ここらへんで一番鮮度の高い自信がある」と誇らしげに語る政章さん。評判は口コミで広がり、地元だけでなく県外からの客も次々に訪れている。

 人気メニューはマグロやサーモン、白身魚などをふんだんに扱った海鮮丼と中トロ、大トロの刺身定食。調理を担当する政敏さんの好みで「一切れを大きくしている」と食べ応えは十分だ。旬の魚が味わえる日替わりメニューも充実しており、店を訪れるたびにさまざまな魚定食が楽しめる。登喜子さんと政敏さんの妻まゆみさん(53)が作る煮付けは箸が進む。白米は新潟県産コシヒカリを使用しており、甘みと香りが魚のおいしさを引き立てる。

 家族4人で切り盛りする食堂は時代の流れに沿って商売のスタイルを変えたりもしたが、刺し身や煮付けのおいしさはいつの時代も変わらない。「これからも新鮮な魚料理を届けたいね」と政章さん。緑豊かな小さな村で、港町にも引けを取らない海の幸が待っている。(小山璃子)

お店データ

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地元や県外からたくさんの客に愛されているうお政。店前に構える駅名標風の看板は撮影スポットとなっている
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【住所】泉崎村泉崎字山ケ入45の1

【電話】0248・53・2007

【営業時間】午前11時~午後1時

【定休日】日曜日

【主なメニュー】
▽魚定食=750円
▽海鮮丼定食=1200円
▽刺身定食=1200円
▽本マグロ刺定食・大トロ=2200円
▽本マグロ刺定食・中トロ=1600円
▽本マグロ刺定食・赤身=1200円
▽本マグロ刺定食・食べ比べ=1750円
▽マグロ丼定食=1300円
▽ネギトロ丼定食=850円
▽サーモンとイクラの親子丼定食=1500円

230618syokudou2.jpgマグロやサーモン、エビ、白身魚など海の幸をふんだんに使った海鮮丼が人気メニュー

 "映える"看板人気

 食事を済ませた客たちが帰る際に、駐車場前の看板にカメラを向ける。レトロな色合いを持つ駅名標風の看板が存在感を示す。看板は店が現在の場所へ移転した時、開店祝いとして知り合いの看板職人から贈られたもの。行き先表示には役場と病院が記されており、"インスタ映え"しそうなスポットにもなっている。まゆみさんは「たまに村役場までの道に迷った人から行き先を尋ねられることがある」と語る。