【まち食堂物語】あさひや食堂・福島市 愛込めて手作り半世紀

 
家族で力を合わせて食堂を切り盛りする(手前から)雄一郎さん、孝治郎さん、由美子さん(石井裕貴撮影)

 修業3日で開業

 1969年、都内でサラリーマンとして働いていた18歳の瓶子(へいし)孝治郎さんの元に父善治郎さんから一通の手紙が届いた。脱サラして食堂を開店することに加え、こんな文言も書き添えられていた。

 「長男だからって店を継ぐことはない。自分の道を進め」

 福島市渡利で半世紀以上にわたり営業を続け、地元住民らに親しまれる「あさひや食堂」。善治郎さんは、地域に食堂が当時1軒しかなかったことに目を付けて食堂を妻道子さんと開業した。

 開業前の修業は市内の料理店で3日間。だしの取り方などを学んだという。開店当時のメニューはラーメンやカツ丼、カレーなど食堂定番の約10種類ほど。温かみのある料理や接客などから、開店当初からにぎわい、客足は途切れなかった。

 都内で働く傍ら、大学の夜間学部を卒業した孝治郎さんは家業を手伝う気持ちはなかったが、盆や正月に帰省するたびに繁盛している様子に「自分が継がなきゃいけないかな」と心が変わった。その頃、地域の食堂は13軒までに増えていた。

 「家を継ごう」。意を決して実家に戻ったのは25歳。料理の経験はなかった。出前を担当しながら、営業終了後は善治郎さんの見よう見まねで料理を練習した。

 「当時は懇切丁寧という感じではなく、父親の後ろ姿を見て料理を学んだかな」と孝治郎さん。料理を学ぶ上で必要不可欠だったのは、善治郎さんから受け継ぐ秘伝のノートだ。

 だしの取り方やカレーの作り方、焼き豚の作り方など全てが書き込まれている。同店の一番のこだわりは「全て手作り」。冷凍食品を使えばもっと簡単に提供できるが、創業時から全て手作りは変わらない。「うちよりおいしい店はあると思うけど、自分たちで手作りして、それがお客さんへの愛情につながるはず」と信念を語る。

 注文方法が独特

 店独特の注文法もユニーク。例えば、常連客たちは人気の半焼肉丼とラーメンのセットを「8番セット」と注文する。セットメニューを番号付けして、競馬の枠順を連想させる色づかいで店内の白板で説明する競馬好きの孝治郎さんならではの遊び心だ。「人気は3、8、4だな」と笑う。

 29歳で友人の結婚式で知り合った由美子さんと結婚した。両親が二人三脚で店を支え合う姿と同じように、次は孝治郎さんと由美子さんらが店の歴史を紡いできた。店を任されてからはメニューを増やし、仕出しや弁当も始めた。地域に集まる場がないと聞けば、2階を宴会場にして地域の憩いの場をつくった。

 10年前からは長男雄一郎さん(46)も店を手伝い、今では孝治郎さんが不在の時には店を任せられるまでに成長している。

 いつでも店には客の笑顔があふれる。地域に13軒あった食堂で、現在も営業するのはあさひや食堂だけとなった。なぜ、半世紀以上もの長きにわたり、店を続けることができたのか。孝治郎さんの言葉は簡潔だった。

 「愛情だよ、愛情」

 客を思い、きょうも家族と築く"自分の道"を歩む。(影山琢也)

お店データ

食堂3.jpg調理場でボリュームのある料理を盛りつける由美子さん(右)と孝治郎さん

食堂1.jpg

【住所】福島市渡利字中江町17の1

【電話】024・522・9477

【営業時間】午前11時~午後2時、午後5時~同7時

【定休日】月曜日

【主なメニュー】
▽焼肉定食=950円
▽ホルモン炒め定食=900円
▽ニラレバ炒め定食=900円
▽豚肉と玉ねぎ炒め定食=900円
▽豚肉とキャベツの味噌炒め定食=900円
▽半カレーとラーメンセット=800円
▽半チャーハンとラーメンセット=800円
▽半焼肉丼とラーメンセット=950円
▽日替わり定食=750円

食堂2.jpg一番人気を争う看板メニューの焼肉定食(手前)と半焼肉丼とラーメンセット

 三つのガラが大事

 孝治郎さんは地域の子どもたちが職場体験で訪れた際、子どもたちから「ラーメンをうまく作る秘訣(ひけつ)は何ですか」と質問を受けた。

 少し考えた後に「そうだな。水はもちろん豚ガラ、鶏ガラ、そしてやっぱり"人柄"だな」とちゃめっ気たっぷりの返答で現場を和ませた孝治郎さん。「地域の皆さんに支えられて今がある」と感謝の気持ちが強い。「おいしい」と喜んでくれる客の顔を思い浮かべながら、きょうも店に立つ。

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 NHKラジオ第1「ふくどん!」で毎週木曜に連携企画

 まち食堂物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『ふくどん!』(休止の場合あり)のコーナー「どんどんめし」で紹介される予定です。