【まち食堂物語】お食事処遊睎・相馬市 みんなの好物集まった

増やし続け58品
昼の店内は、いつもサラリーマンでにぎやかだ。カウンターでは冷たいおしぼりで額の汗をぬぐい、疲れを癒やす営業マンらしき男性もいれば、小上がりで午後の段取りを話しつつご飯をかき込む作業着姿の2人組の姿もある。腹を満たして英気を養った人々は「もうひと踏ん張りするか」と、再び仕事へと戻っていく。相馬市のJR相馬駅にほど近い中心市街地にのれんを掲げる「お食事処遊睎(ゆうき)」は、胃袋から働く人を支えるまち食堂だ。
「飽きずに、毎日食べてもらえるようにと、少しずつメニューを増やしていたら、いつの間にかこんなになってしまった」。びっしりと料理名が書かれたメニュー表を眺め、女将(おかみ)の久田成子さん(64)は笑う。チキンソテー、煮込みハンバーグなど定食に始まり、カツ丼、ラーメン、うどん、そば、ナポリタンまで58品がずらりと並ぶ。
「メニューを減らそうと思ったこともあったけど、一つずつ見ると、どれも注文があって外せなかった」と成子さん。ほとんどの料理は財布の負担にならないように千円以内で食べられる。出来合いのものはなるべく使わず、手作りにこだわるのは、自慢の味を守るためだけでなく、客の懐事情をおもんぱかってのことだ。
調理場に立つのは職人気質の料理人、夫の功さん(63)と成子さん。チキンソテー定食にかかったレモン風味のバターソース、チャーシューを仕込む際の煮汁をベースにしたラーメンのスープなど、しっかりとしていながら、どこか温かい手作りの味が常連客を引き付けて離さない。
2人が食堂を開いたのは30年ほど前。潮干狩りなどで訪れる観光客を目当てに、松川浦に店を構えた。名産のアサリを使った炊き込みご飯、焼いたツボダイやイカ、ラーメンなどを出した。「赤ちゃんからおじいちゃん、おばあちゃんまで、家族全員に楽しんでほしい」との思いで店を続け、観光客はもちろん、地元の漁師にも受け入れられた。
常連の声で再開
転機となったのは2011年3月の東日本大震災だった。港のすぐそばにあった店は津波にさらわれた。「土台すら残らなかった」と成子さんは振り返る。一時は廃業も覚悟したが、通い続けた常連から「また店をやらないのか」と何度となく声をかけられた。
2人の決断は早かった。相馬駅近くのすし店だった空き店舗を見つけると、すぐさま改装に取りかかり、11年12月に再び客を迎え入れた。純和風の外観、カウンターにあるすしネタのケースなど、建物は以前のすし店の名残をとどめる。
移転して変わったのは店のしつらえだけではない。昼の時間の客はサラリーマンが多くなった。「こんなものが食べたい」「あれがあったら、いいのにな」。そんな客の求めに応じ、メニューは次第に増えていった。
子どもたちが独立した今、「細々と続け、来た人に喜んでもらったらそれでいい」と成子さんは語る。震災は店の場所も客も料理も変えた。だが「訪れた人みんなに満足してもらいたい」と、この店が抱き続ける願いだけは変えることができなかった。(丹治隆宏)
震災後、JR相馬駅近くに移ったお食事処遊睎。外観は以前の店舗の名残をとどめ、純和風となっている
【住所】相馬市中村字錦町1の5
【電話】0244・36・6602
【営業時間】午前11時~午後2時、午後5時半~同10時(注文は同9時半まで)
【定休日】月曜日
【主なメニュー】
▽海老天丼=960円
▽チキンソテー定食=960円
▽煮込みハンバーグ定食=960円
▽豚ロースの味噌焼き定食=960円
▽ミックスフライ定食=960円
▽ラーメンセット(ミニチャーハン、ミニカレー、ギョーザのいずれか1品付)=960円
▽揚げ出し豆腐のマーボー定食=960円
▽ソースかつ丼=980円
▽大あなご天丼=1030円
▽季節の天ぷら定食=1030円
▽刺し身定食=1050円
人気メニューのチキンソテー定食。皮はこんがりと香ばしく、肉は柔らかくジューシーだ。塩味が効いたバターソースが全体を引き締める
もてなし別腹まで
来店者のリクエストからさまざまな料理をメニューに加えてきた遊睎。ランチメニューに付く食後のデザートとコーヒーも、客の求めに応じて始めたサービスだという。デザートは日替わりで、かつてすしネタが入っていたカウンターのケースから、杏仁豆腐、ムース、白玉団子などが運ばれてくる。甘味を口に運んだ後、満腹の腹をさすりながらすするコーヒーの苦みはたまらない満足感を与えてくれる。
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NHKラジオ第1「ふくどん!」で毎週木曜に連携企画
まち食堂物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『ふくどん!』(休止の場合あり)のコーナー「どんどんめし」で紹介される予定です。
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