【震災5年インタビュー】菊池製作所社長・菊池功氏 地元企業の挑戦必要

「地元(の企業や住民)があれこれ心配しているだけではいけない。まず何かをする。自ら進むことで実績ができ、道が開けることで、さらに他の方向へも走れる」。飯舘、川内両村や南相馬市などに工場を展開する菊池製作所(東京)の社長菊池功氏は、震災と原発事故による逆境をはねのける新たな産業の創出を目指し、地元企業が果敢に挑戦する必要性を訴える。
震災から6年目に入り、復興の土台となる産業の育成は次の段階に移ると指摘。「仕事を生み出すにはどんなことをしたらいいか、地元から市町村、県、国へと、下から上げていく時期」という認識を示す。県が復興施策の柱の一つに掲げ、自らも発展へ意欲を見せるロボット産業が鍵を握るとし「地元(の企業や住民)が主体的に、県、市町村と連携して取り組むことが望ましい」と提言する。
大学団地で産業育成
ロボット産業などにより被災地の雇用確保を目指す菊池製作所の社長で飯舘村出身の菊池功氏(72)は、地域に根差した企業づくりに向け、人材と技術の下支えで競争力を高めることに力を注ぐ。(聞き手・編集局次長 小野広司)
―飯舘村の工場は避難区域指定後も事業を継続し雇用を守った。
「震災時は250人ほどが勤めていた。私は東京の本社にいて詳しい状況が分からず、飯舘工場には、まず社員に健康被害がないことを最優先に行動するよう求めた。国や県、村から毎日情報を集め、本社に報告させた。その上で社員みんなで情報を共有し、相談しながら行動を決めなさいと指示した。あの状態で『避難しろ』とも『残れ』とも言えない。両方とも無責任だ。社員を信じるしかない。退職した若手社員もいたが、飯舘工場は会社が残したものではなく、社員が自ら残したものだ」
川内工場に世界初技術
―震災後、避難区域が設定された川内村に工場を置いた狙いは。
「村からは震災前から誘致の要請があった。当社の工場は匠(たくみ)の技を重視してきた。川内に工場を造るなら都内で仕事をする以上に高い技術と設備が必要な仕事を持っていこうと決めていた。どのメーカーも、難しい仕事は国内で進めたい。不便な所に立地しても確かな技術と設備を持ち、ものをつくれる会社。飯舘工場もそういう工場にしたし、川内工場には世界初の技術を導入した。軌道に乗れば間違いなく受注は増える。だから『地元の企業』になれる。今必要なものだけを、ただ造っていては『地元の企業』にはなれない」
―南相馬市小高区の工場では災害対応ロボットや小型無人機「ドローン」、着用型の筋力補助装置「マッスルスーツ」を開発、製造する。ロボット産業にどのような可能性を見いだしているのか。
「ロボット産業は第4次産業と称され今後の成長が期待される。特に人間をサポートする装着ロボットは高齢社会で需要が伸びる。介護や農業、雪かきにも応用できる。当社はさまざまな研究テーマを持つ大学の研究者らと、南相馬市に『大学団地』をつくる構想を描いている。既にロボット関係で10大学とつながった。大学団地では、研究者が同じ屋根の下で同じ釜の飯を食う。これほど多くの大学が集まって研究する例は過去にない。福島県は多大な被害を受けたが、逆に今の環境だからこそ挑戦できる。『福島の復興』という大きな共通目標の下に力を結集する必要がある。大学団地が日本のロボット産業成長の助けになると信じている」
―福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想にもロボット産業を盛り込んでいるが、まだ具体像が見えてこない。現状をどう受け止めるか。
「被災地の浜通りに拠点の一つを置いてほしい。さらに県全体を大きな地元と捉え、広域的な道路で各地域を結んで拠点化を進めるべきだ。国、県、市町村、民間が一緒に取り組む体制づくりが重要となる。行政にお願いするだけでは進まない。民間ができることには率先して着手し、行政がバックアップする体制が求められる」
「ロボット産業」東北から
―県内の経営者にメッセージを。
「海外生産でコストが安くなる中、既存の分野では仕事の取り合いが激化し、新しいことを始めるのは難しく、競争力が育たない。だからこそロボット産業は成長の可能性を秘めている。本県の企業と一緒に伸ばしていきたい。装着ロボットは、一人一人違う体形や病気の症状に沿えるようオーダーメードで対応し、付加価値を付けられる強みがある。大手が参入しにくく、中小企業の加工技術を生かせる。国が注力して育てれば、ものづくりだけでなく、販売、金融、保険、各種サービスを扱う会社が集まる。自動車産業も同様の構図で世界的な市場に成長した。自動車産業などは関東から西で発展してきたが、せめてロボット産業は東北から広めていきたい」
( 「識者に聞く」は今回でおわります )
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