震災10年「Fukushima50」 佐藤浩市さん、渡辺謙さんスペシャルインタビュー

 

 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から間もなく10年。直後の現場で奮闘した福島の作業員らを描いた映画「Fukushima50(フクシマフィフティ)」(若松節朗監督)に出演した二人の俳優も3.11を特別な感情をもって迎える。現場を指揮した当直長役の佐藤浩市さん、吉田昌郎(まさお)所長(当時)を演じた渡辺謙さんがそれぞれ福島民友のインタビューに応じ、映画と被災地に込めた思いを語った。

 1、2号機当直長・伊崎利夫役、佐藤浩市さん 過去のことにしない

 主演の佐藤浩市さんは、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から10年の歳月が流れる今こそ「過去のことにしてはいけない。それだけは皆さんに分かっていただきたい」と強く願う。(聞き手・東京支社 桑田広久)

 佐藤さんは、原発事故直後の現場で当直長として現場を指揮する伊崎利夫役を演じ、仲間と共に危機に立ち向かう極限状態を再現した。映画公開後、新型コロナウイルスの脅威は日本、そして世界が直面する一大危機へと発展した。

 コロナ禍で映画や音楽などの芸術分野は苦境にあえぐ日々が続く。佐藤さんは「みんなが厳しい状況を強いられているが、果たして当時の福島の状況と同じかというと、やはり比較にならない」と語る。それでも「(コロナ禍が)全世界的になって対岸の火事とは言えなくなった。だから(各自が痛みを)ずっと抱えながら、自然災害にしても人災にしても、次に何かがあったときに、自分たちが対処できるように忘れないでいなければならない」と胸に刻む。

 劇中で佐藤さんが訪れる富岡町の夜の森地区の桜並木は、帰還困難区域のうち避難指示が昨年3月に先行解除されたことで、立ち入りが可能になった。小さな桜のつぼみは11年目の春に向けて膨らみつつある。「映画の中の桜は、絶望と希望が混在していた。そうした忘れてはいけないものを頭の片隅に置いて未来を構築する、そして次の世代に渡していくことが一番のテーマです」

 第1原発所長・吉田昌郎役、渡辺謙さん 引き継ぐことが大切

 「被災地の人々にとって気分の浮き沈みが多い10年だったと思う」。渡辺謙さんは宮城県気仙沼市でカフェを経営するなど被災地との関わりを持ち続ける。復興で大事なのは「気長に積み重ねていくこと。ゼロになった街を10年でつくれるはずがない。時間をかけて気長に丁寧に積み上げていくしかない」と語る。(聞き手・編集局次長 佐藤掌)

 震災の教訓を風化させないために大切なことは「外に向けた発信だけではなく親から子、先輩から後輩へと引き継ぐことも大切」と指摘。「物心のつかなかった子どもたちも今は中高生。どうやって励まし合ってきたのかを伝えてほしい」と望む。

 この1年のコロナ禍については「つらい体験」と振り返り、あえてポジティブに捉えるなら「震災の記憶を呼び覚ましたこと」という。「右肩上がりの経済や物で満ちあふれた生活について、立ち止まって考えてみようと思えた。この10年の歩みを丁寧に振り返るきっかけになった」

 スイスのダボス会議などで被災地の様子を世界に発信した。原発事故に関する反応は「海外よりも、日本人のほうがずっと敏感で知識量も豊富。映画のメッセージにもあるように、今後も記憶の中に書きとどめないといけない」と強調。ただ、その是非については「国内でもっとはっきりとした議論をすべきだ」と強く訴える。「そこがなおざりなまま未来が決まることには違和感がある。良い悪い、必要かどうかも含めてみんなと話し合いをしていきたいですね」