危機越え...つなぐ火祭り 富岡で15日、氏子の坂本さん若手育成

 
4年ぶりに開かれる麓山の火祭りに向け、若手に松明づくりを教える坂本さん(左)=富岡町

 県指定重要無形民俗文化財「麓山(はやま)の火祭り」が15日、富岡町の麓山神社で4年ぶりに復活する。男衆が燃え盛る松明(たいまつ)を担ぎ、山道を駆ける勇壮な祭りは、過去にも危機を迎えた。「何とか継承しようとやってきました」。6日、神社で準備が本格化し、氏子総代庶務の坂本仁さん(67)は、若手にかつての自分を重ねる。

 火祭りは上手岡地区に約400年続く伝統行事だ。坂本さんも高校生になると参加した。だが、昭和40年代に松明が数本になるなど一時衰退。その時、地区の若手が立ち上がり「はやま青年会」を結成した。会員が氏子を巡り寄付を募るなど、祭りの基盤を強化した。坂本さんは初期から加わり、後に会長も務めた。やがて「昭和の危機」を乗り越えたベテランとして祭りの屋台骨を支える存在になった。

 2011年3月、東京電力福島第1原発事故が発生した。全町避難中の12年、先輩から「防護服を着て、ちょうちんだけでも奉納しないか」と相談された。気持ちは分かったが「麓山だけ特別扱いできないでしょう。避難指示が解除されたら必ずやる」と説得した。

 17年4月に町の大部分の避難指示が解除されると再開の議論が始まった。だが青年会は会員が減った上、各地に避難していた。坂本さんは「継続には間口を広げよう」と、OBや協力者の受け皿となる「麓山神社伝統芸能保存会」の設立を提案し、担い手を確保した。

 火祭りは18年8月、原発事故という「平成の危機」を乗り越えて復活した。20年に新型コロナウイルスの感染拡大が始まり、再び中断した。今回は「令和の危機」からの再開となる。

 担ぐ松明は自分で作るのが伝統だ。「しっかり木を挟んだ方がいい」。坂本さんは、若手に作り方を指導する。今年、男衆を先導するのは、18年の復活時に初めて参加した若者だ。「ありがたいことに継ぐ人が育っている」。地元の大先輩として、心と技を次世代につなぐ。(菅野篤司)