被災地舞台「長編映画」完成 相馬出身・岩崎さん、希望を描く

東日本大震災の被災地を舞台にした映画「海鳴りがきこえる」が完成した。相馬市出身の映像作家、岩崎孝正さん(37)の初の長編劇映画で、震災で傷ついた女性の葛藤と再生への希望を描いた。岩崎さんは「震災は直接的な被害を受けなかった人の心にさえ不安や傷を残した。そんな思いを抱く人が、この映画をきっかけに自分の内面に改めて向き合ってくれれば」と話している。
主人公の女性は東京近郊に住む元写真家の理子奈(りこな)。東北出身で、震災で家族が離散した理子奈は空虚感を埋めるように理想とする家族像を追い求め、子育てに追われる日々を過ごしていたが、気付かぬうちに夫との距離は広がっていた。
ある日、理子奈はかつて師事した写真家の男性が海外の戦地取材に赴くと聞かされる。父親を失うような心境でいた理子奈だが、同時期に夫の浮気にも気付くことになり、日常生活の歯車が狂い出す。自分を見失った理子奈が答えを探すように向かったのは、古里の被災地、東北だった。
岩崎さんが映像制作に本格的に携わることになったのは震災がきっかけだった。18歳まで過ごした古里、相馬市磯部地区は津波で押し流され、多くの住民が犠牲になった。当時、東京の書籍編集プロダクションに勤めていた岩崎さんはビデオカメラを手に帰郷すると、地元の寺で住職をしている父や母、檀家(だんか)、友人などにレンズを向けた。東京と相馬を往復しながら継続的に記録し続けた映像は、短編ドキュメンタリー作品「村に住む人」としてまとめられ、2014年札幌国際芸術祭の連携事業「露口啓二展」で上映された。
初の長編映画も震災に正面から向き合った。撮影は昨年9月ごろから始まり、県内では浪江町などでロケが行われた。映画の終盤、理子奈は古里の海にたどり着く。海は理子奈から全てを奪い去ったはずだが、彼女の表情は穏やかだ。そこには岩崎さんが作品に込めた願いが表現されているという。「震災を経験した人たちは歳月が流れたとしても、その事実から逃れることはできないかもしれない。だが、そこに向き合うことで希望を見つけることができるのではないか」と岩崎さんは力を込める。(丹治隆宏)
10月28日、東京で公開
「海鳴りがきこえる」(71分、タイムフライズ製作、ブライトホース・フィルム配給)は10月28日、東京・新宿のK cinemaで公開され、その後全国で上映される。クラウドファンディングサイト「モーションギャラリー」では劇場公開支援プロジェクトが同20日まで実施されており、宣伝、配給に必要な経費を募っている。
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