【平成3年】警察庁指定118号事件 会社社長失踪から2年後『急展開』

1人の会社社長の失踪が、4県にまたがる広域凶悪事件に発展した。「まさか、こんな大きな事件になるとは、当時は思っていなかった」。県警で鑑識課長や捜査1課長、刑事部長を務めた小山元さん(78)にとっても、1991(平成3)年に発覚した警察庁指定118号事件は想定を超えた事件だった。
昭和、平成と時代をまたぎ、本県と岩手、千葉、栃木各県を舞台に3人が誘拐され、現金を奪われるなどして2人が殺害された事件。本県では89(平成元)年7月、郡山市の塗装会社の男性社長=当時(48)=が従業員に現金1700万円を運ばせた後に失踪、行方が分からなくなっていた。
男性社長の失踪から2年後、事件は急展開する。千葉県で91(平成3)年5月、塗装業者が誘拐され、身代金2000万円が奪われる事件が発生。被害者は栃木県で解放されたが、被害者が郡山市と同じく塗装業者で手口も似ていたことから、関連が疑われた。
千葉県警が容疑者を割り出すと、県警との共同捜査が始まった。「捜査員は福島と千葉で2人一組のペアを組んだ。他県警とペアをつくる経験はそれまでなかった」。郡山市の男性社長は実際には誘拐され、猪苗代町の貸別荘で監禁。現金を奪われた後、別荘近くの山林で殺害され、容疑者らが事前に掘っていた穴に遺棄されていた。
異例の捜査はこれだけで終わらず、拡大していく。容疑者らは岩手県で86(昭和61)年に起きた誘拐、殺人事件にも関与。本県をはじめ、千葉、岩手、栃木の4県警合同捜査本部が郡山署に設置された。小山さんは「容疑者に捜査を気付かれれば逃走される危険性もある中、証拠を確保しなければならなかった。各署から応援を借りた県警挙げての捜査だった」と振り返る。
この事件で衝撃的だったのは、岩手県警の元警察官岡崎茂男元死刑囚=2014(平成26)年6月病死、当時(60)=が主導的に事件に関わっていたことだった。岡崎元死刑囚は警察官時代、約7年にわたり刑事も経験していた。当時、捜査1課長だった小山さんは、事件の端々から「警察の知識を持っていた」と推測できたという。
冷酷で残虐な事件により、男性社長の未来は絶たれた。「真面目で実直な人だったと聞いている。容疑者とトラブルもなかったと思う。なぜ被害者にならなければいけなかったのか」。被害者の無念を思うと、やりきれない思いが今も小山さんの胸を巡る。
◇ ◇ ◇
〔郡山市の事件の経緯〕1989(平成元)年7月20日午後、郡山市の塗装会社の男性社長が大手建設会社名を名乗る男から電話で呼び出され「仕事で人に会う」と言って会社を出て、帰宅しなかった。翌21日。男性社長は家族と銀行に連絡して現金1700万円を準備させ、幹部社員に郡山市大町のファミリーレストランに現金を届けさせた。さらに、現金を乗用車内に置いて会社に帰るよう指示。その後、連絡が途絶えた。不審に思った社員らが警察に連絡。警察がファミリーレストランに駆け付けた時にはすでに乗用車はなくなっており、男性社長からの連絡も途絶えた。その後の捜査で同市虎丸町のスーパーマーケットの駐車場に放置された男性社長の乗用車が見つかったが、現金はなくなっていた。
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【平成3年の出来事】
5月・広域的な誘拐・殺人事件が発覚。警察庁広域重要指定118号事件に
6月・東北新幹線が東京駅乗り入れ
8月・磐越道磐梯熱海―猪苗代磐梯高原インターチェンジ間が開通
10月・歌手の春日八郎さんが死去
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